人件費管理を「守り」だけにしている人事は、経営の信頼を得られない
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人件費管理を「守り」だけにしている人事は、経営の信頼を得られない

#採用#経営参画#離職防止

人件費管理を「守り」だけにしている人事は、経営の信頼を得られない

「人件費を削れと言われたが、どう対応すればいいかわからない」「採用を強化したいが、人件費が予算オーバーになりそうで進められない」「人件費が高い低いと言われても、その基準がわからない」——人件費に関するこういった悩みは、人事担当者にとって身近なテーマではないでしょうか。

人件費は多くの企業でコストの最大項目の一つです。でも「費用」として管理されることが多く、「投資として考える」視点が欠けていることが多いのではないかと思っています。

ある食品メーカーの人事部長がこんな話をしてくれました。「毎年の予算編成で、各部門から採用増の要求が来る。でも全体の人件費が予算をどのくらいオーバーするかを把握するのに毎回時間がかかっていた。経営会議で社長から『労働分配率はどうなっているんだ』と聞かれたとき、すぐに答えられなかった。その後、財務担当者と協力して人件費と粗利益の関係を毎月モニタリングできる仕組みを作ったら、経営との議論がまったく変わった」と。

「人件費の数字を把握している」ことと「人件費を経営の言語で語れる」ことは、別物です。この差を埋めることが、人事が経営のパートナーになるための鍵になります。

今日は、人件費管理の基本的な考え方と、経営と連動した人材投資の視点について一緒に考えてみたいと思います。


「人件費管理」が難しい理由

人件費は「コスト」か「投資」か

人件費を「費用(コスト)」として捉えると、「削減すればいいもの」という発想になりやすいです。でも、人への投資(採用・育成・報酬)が事業成長の源泉であるなら、「人件費は事業成長のための投資」という側面があります。

「削減すべきコスト」と「投資すべき資源」のどちらとして人件費を捉えるかは、会社の事業フェーズと状況によって違います。成長投資フェーズにある事業の採用費用は「投資」ですし、事業縮小が決まった部門の人件費は「管理対象のコスト」という側面が強くなります。

人事が人件費管理で価値を発揮するのは、「この状況でどの人件費は削減でき、どの人件費は投資として守るべきか」を経営と一緒に考えられることです。「一律削減」でも「なんでも要求通り」でもなく、事業の優先順位と連動した判断ができる人事が、経営から信頼されます。

「人件費の総額」が見えていない問題

部門ごと・個人ごとの給与は管理されていても、「会社全体の人件費が経営計画に対してどのくらいか」という総額管理ができていないケースが意外に多いです。

「事業部が欲しいと言う人材を次々と採用していったら、人件費が膨張して手がつけられなくなった」「期末になってから人件費が予算を大幅に超えていることに気づいた」——こういうことを防ぐためには、採用の意思決定に「人件費総額の視点」を組み込むことが必要です。「この採用で年間人件費がいくら増えるか」を即答できる人事が、経営から「一緒に人事の話ができる」と思われます。

「労働分配率」を意識していない

労働分配率(人件費÷粗利益)は、「稼いだお金に対して人件費がどのくらいを占めるか」を示す指標です。業種によって目安が異なりますが、一般的にサービス業は50〜60%、製造業は30〜40%程度が参考値として使われます。

この指標を把握していないと「適切な人件費水準かどうか」の判断基準がなくなります。「業界平均より労働分配率が高い」という状況は、採用増や給与引き上げの際に「人件費に余力があるか」を判断するための重要な情報です。


よくある失敗パターン

失敗パターン1:「予算管理」だけで「戦略的視点」がない

「今期の人件費予算は〇〇億円で、現在の実績は〇〇億円です」という報告で終わるパターンです。

「予算内に収まっているか」の管理だけでなく、「来期の事業計画を達成するためにどんな人材をどのくらいの費用で確保するか」という戦略的な視点が必要です。「人件費の現状報告」から「人件費の先行きシミュレーション」に変えることで、人事の話が経営の意思決定に直接役立つものになります。

失敗パターン2:「一律削減」で大切な人材を失う

コスト削減の指令が来たとき、「全部門一律〇%削減」という対応をするパターンです。

事業成長のエンジンとなっている部門の人件費を同率で削減してしまうと、事業成長が鈍化するリスクがあります。「A事業部の営業人員削減は来期の売上目標に直結するリスクがある」「B部門は生産性向上で人員効率化の余地がある」——こういった判断ができる人事が、「削れと言われても守るべき理由を説明できる人事」になれます。

「どこを削減して、どこを守るか」を事業の優先順位と合わせて判断することが必要です。

失敗パターン3:「固定費」として考え、変動を想定していない

人件費を「固定費」として捉えていると、事業環境の変化に対応しにくくなります。

正規雇用・業務委託・派遣・パートタイム——雇用形態の組み合わせを戦略的に設計することで、人件費の変動対応力が変わります。「繁閑の差が大きい事業には、非正規雇用の活用で変動費化する」「高度な専門性が必要な業務には業務委託を活用して、採用固定費を抑える」——こういった設計が、人件費管理の柔軟性を高めます。


プロの人事はこう考える:人件費管理の設計

「事業計画と人員計画」を連動させる

人件費管理で最も重要なのは、「来期の事業計画を達成するためにどんな人材が何人必要で、そのために人件費はいくらかかるか」という「人員計画と事業計画の連動」です。

事業計画の策定プロセスに人事が早い段階から参加し、「この事業計画を実現するための人員計画(と人件費シミュレーション)」を一緒に作ることで、「後から人件費が膨張する」問題を防げます。

「経年変化を眺める→課題の特定→人事施策の設計→費用対効果の試算→優先施策の選択」という5ステップで考えることで、人件費計画が「事業計画の後追い」でなく「事業計画の構成要素」になります。

「労働分配率」を経営の指標として共有する

労働分配率(人件費÷粗利益)を、経営と共有する指標として使うことをおすすめします。

「今期の労働分配率は〇%で、業界平均の〇%と比べると△△の状況です」「来期の採用計画を実行した場合、労働分配率は〇%になります。これは事業計画に対して合理的な水準です」——このような形で、経営と人件費について数字で対話できるようになります。

「経営者の第一言語は数字」という言葉があります。人件費も「予算のスプレッドシート」だけで管理するのではなく、「経営の言語(売上・利益・比率)」で語れることが重要です。月次の経営報告に労働分配率のトレンドを含めるだけでも、「数字で話せる人事」という印象が変わります。

「人件費の投資対効果」を語る

人件費削減の圧力が来たとき、「人件費を削減するとどんな事業リスクがあるか」を数字で語れることが人事の力量です。

「A部門の△名削減は、月〇〇の売上機会損失につながる可能性があります」「採用コストの削減は短期的にはコスト減ですが、欠員が続くと既存社員の残業増加で〇〇のコストが発生します」「離職率が1%上昇すると、採用・育成コストで年間〇〇万円の追加コストがかかります」——こういった「人件費削減のデメリット」を定量的に示せると、「単純削減ではなく、戦略的な人件費管理」の議論ができます。

「人件費は削れ」という圧力に押されるだけでなく、「削ることのリスク」を数字で示せる人事が、経営の信頼を得られます。


明日からできる3つのこと

1. 「労働分配率」を計算してみる(所要時間:30分)

会社の粗利益(売上総利益)と人件費から、「労働分配率(人件費÷粗利益)」を計算してみましょう。「〇%が適切か」は業種によって違いますが、まず「自社はどのくらいか」を把握することが出発点です。経理・財務と協力して数字を出してみましょう。業界平均との比較ができると、「高いのか低いのか」の判断軸が生まれます。

2. 「部門別の人件費と売上・利益の関係」を整理する(所要時間:2〜3時間)

部門別の人件費と、その部門が生み出している売上・利益を並べて整理してみましょう。「人件費に対して、どれだけの価値を生み出しているか」という視点で見ることで、「どこに投資し、どこを効率化すべきか」が見えてきます。

この作業を通じて、「この部門は人件費対比の生産性が高い」「この部門は人件費は高いが、売上への貢献が見えにくい」という構造が見えてきます。経営に「部門別の人件費生産性」を報告できると、人件費の議論が「総額管理」から「戦略的な投資判断」に変わります。

3. 「来期の事業計画から逆算した人員計画」を経営と議論する(所要時間:設計1日+経営との議論)

次の事業計画策定のタイミングで、「この事業計画を達成するために、どんな人材が何人必要か、そのための人件費はいくらか」を人事から提案してみましょう。人事が先手を打って「人員計画と人件費シミュレーション」を提示することで、「後から人件費が膨張する」問題を防ぐことができます。


まとめ:人件費管理は「経営との共通言語」

人件費管理を「予算の管理」から「経営戦略と連動した人材投資の管理」に変えることが、人事が経営のパートナーになるための重要な一歩です。

「施策の効果は売上伸長・コスト削減・リスク低減の3つで整理する」という考え方があります。人件費管理においても、「人件費の削減がリスク低減につながる場合と、人件費の投資が売上伸長につながる場合の両方を判断できる」ことが、人事プロとしての力量です。

「人件費は削れ」と言われたとき、「削れる部分と守るべき部分」を事業の優先度と数字で説明できる人事——そういう人事が、経営から「一緒に考えたい人事担当者」として信頼されます。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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