
LGBTQフレンドリーな職場を作るとき、人事が最初にやるべきこと
目次
- LGBTQフレンドリーな職場が重要な理由
- 「隠さなければ働けない」組織のリスク
- ビジネス上のメリット
- よくある誤解と失敗パターン
- 誤解1:「うちには関係ない」
- 誤解2:「特別扱いをすること」だと思っている
- 失敗パターン:「研修だけ」で終わる
- プロの人事はこう考える:LGBTQフレンドリーな取り組みの設計
- まず「現状把握」から始める
- 「制度の見直し」から具体化する
- 「相談できる仕組み」を作る
- 「経営からのメッセージ」が土台になる
- 明日からできる3つのこと
- 1. 社内制度の「LGBTQフレンドリー度チェック」をする(所要時間:1〜2時間)
- 2. ハラスメント研修に「SOGIハラ」を追加する(所要時間:研修設計に2〜3時間)
- 3. 「LGBTQ対応方針」を一文明文化する(所要時間:1〜2時間)
- まとめ:LGBTQフレンドリーな職場は「全員のため」
- もっと深く学びたい方へ
LGBTQフレンドリーな職場を作るとき、人事が最初にやるべきこと
「LGBTQの社員への配慮が必要だとわかっているが、何から始めればいいかわからない」「セクシュアリティに関する問題が起きた際の対応が不安」「制度を整えたいが、どこまでやるべきか」——LGBTQに関する職場の問題について、こういった悩みを持つ人事担当者が増えています。
LGBTQフレンドリーな職場づくりは、「特定の人への特別扱い」ではなく、「誰もが自分らしく働ける環境を整える」という組織の包括性(インクルージョン)の取り組みです。
ある小売業の人事担当者が相談をくれました。「退職した社員の面談で初めて、『職場でカミングアウトできなかったから、常に緊張していた。それがしんどかった』という話を聞いた。社内でハラスメント禁止は周知していたが、LGBTQのことは明示していなかった。彼女が相談できる場も、制度の適用も何もなかった。あとから気づいても遅いと思い、対応を始めた」と。この話を聞いて、「気づいたときから始める」ことの大切さを改めて感じました。
今日は、人事がどこから始めればいいか、実践的なアプローチについて一緒に考えてみたいと思います。
LGBTQフレンドリーな職場が重要な理由
「隠さなければ働けない」組織のリスク
LGBTQに関して日本の職場では、多くの当事者が「自分のセクシュアリティを職場で隠して働いている」という状況があります。
隠すことへのエネルギーコスト(本来の自分を見せられないことからくるストレス)、「もし知られたら」という不安、職場での孤独感——これらは、仕事のパフォーマンスとウェルビーイングに影響します。「自分を隠すことに使うエネルギー」が仕事ではなく自己防衛に向かうとき、そのコストは組織全体に及びます。
「誰も犠牲にならない組織を当たり前に」という考え方があります。LGBTQフレンドリーな職場づくりは、「すべての社員が力を発揮できる組織」を作るための取り組みです。
ビジネス上のメリット
LGBTQフレンドリーな職場づくりは、「道徳的に正しいから」という理由だけでなく、ビジネス上のメリットもあります。
採用において「インクルーシブな会社」という評判は、多様な人材の採用に有利に働きます。若い世代を中心に「多様性を尊重する職場かどうか」を就職先選びの重要な基準にする傾向が強まっています。LGBTQの社員が安心して働ける職場では、エンゲージメントと定着率が高まる傾向があります。
「施策の効果は売上伸長・コスト削減・リスク低減の3つで整理する」という考え方があります。LGBTQフレンドリーな取り組みは、「採用競争力向上(多様な優秀人材の確保)」「定着率改善(離職コストの削減)」「ハラスメントリスクの低減」として経営に語ることができます。
よくある誤解と失敗パターン
誤解1:「うちには関係ない」
「うちの会社にはLGBTQの社員はいない(と思う)」という認識は、統計的に見て正確ではない可能性が高いです。
LGBTQ当事者の割合は様々な調査で人口の数%〜10%程度と言われています。100人規模の会社であれば数名〜10名程度の当事者がいると考えるのが自然です。「いない」のではなく、「声を上げられない環境にある」可能性が高いのです。「うちには関係ない」という認識は、「当事者が開示できないほど安全でない職場」を見えにくくしてしまいます。
誤解2:「特別扱いをすること」だと思っている
「LGBTQの人を特別扱いするのはおかしい」という誤解があります。でも、LGBTQフレンドリーな職場づくりは「特別扱い」ではなく「公平な扱い」です。
「結婚している社員に給付している配偶者手当を、同性パートナーがいる社員にも給付する」——これは「特別扱い」ではなく「同じ制度を等しく適用すること」です。「パートナーと生活を共にしている」という事実は同じなのに、法律婚か否かで制度適用が変わることへの疑問として捉えるとわかりやすいかもしれません。
失敗パターン:「研修だけ」で終わる
LGBTQ研修を実施して「対応した」とするパターンです。研修は意識を変えるために重要ですが、「制度の整備」「相談窓口の設置」「経営のコミットメントの表明」が伴わなければ、実質的な変化は起きにくいです。
「研修で知識を得たが、実際の問題が起きたときどこに相談すればいいかわからない」という状態では、困っている社員を助けられません。「研修で意識を変え、制度で行動を変え、窓口で問題を受け止める」という3点セットが必要です。
プロの人事はこう考える:LGBTQフレンドリーな取り組みの設計
まず「現状把握」から始める
LGBTQフレンドリーな取り組みを始める前に、「今の職場の状況はどうか」を把握することが重要です。
社員アンケートに「職場で自分らしくいられるか」「多様性が尊重されていると感じるか」という設問を加える。社内の制度(福利厚生、育児・介護支援など)がLGBTQ当事者にも適用されているかを確認する——こういった現状把握が、優先すべき取り組みを特定するための出発点です。
「当事者に直接聞く」ことは難しいことが多いですが、「全員向けのアンケートで、誰でも答えやすい形で聞く」というアプローチが、実態把握の現実的な方法です。
「制度の見直し」から具体化する
LGBTQフレンドリーな取り組みで比較的始めやすいのが、「制度の見直し」です。
- 福利厚生・社内手当の適用範囲に「同性パートナー」「事実婚パートナー」を含める
- 通称名の使用を認める(戸籍上の名前と異なる名前で業務を行える)
- トイレ・更衣室などの設備について、性自認に配慮した利用方法を検討する
- 慶弔規定に「同性パートナー」「事実婚パートナー」を含める
すべてを一度にやらなくていい。まず一つ「できること」から始めることが大切です。「できることから始める」という姿勢が、継続的な改善のエンジンになります。
「相談できる仕組み」を作る
LGBTQに関する問題が起きたとき(差別的発言、ハラスメント、制度の不備など)、安心して相談できる仕組みを整備することも重要です。
ハラスメント相談窓口を「LGBTQ関連の相談も受け付ける窓口」として明示する。相談窓口の担当者が適切な対応知識を持つためのトレーニングを行う——こういった「相談できる環境」があることで、問題が潜在化することを防げます。「相談窓口があることを知らない」という状態にならないよう、窓口の存在を定期的に社員に伝える工夫も重要です。
「経営からのメッセージ」が土台になる
LGBTQフレンドリーな取り組みを機能させるために最も重要なのは、「経営からの明確なコミットメント」です。
社長・役員が「LGBTQを含む多様な社員が活躍できる組織を目指す」というメッセージを発信する。社内報・全社会議・採用ページなどで明示する——これだけで、現場の「言っていいのか言わなくていいのか」という空気感が変わります。「経営が言っているから、私も声を上げていい」という安心感が、当事者にとっての大きな変化になります。経営のコミットメントなしに、人事だけで変化を起こすことは難しいです。
明日からできる3つのこと
1. 社内制度の「LGBTQフレンドリー度チェック」をする(所要時間:1〜2時間)
福利厚生・配偶者手当・育児介護支援制度などについて、「同性パートナーも対象か」を確認してみましょう。「結婚した社員向け」という表現が「法律婚の夫婦のみ対象」になっていないかをチェックし、改善の優先課題を特定します。
「改善が必要な制度がいくつあるか」を把握するだけでも、「次に何をやるか」の優先度が見えてきます。
2. ハラスメント研修に「SOGIハラ」を追加する(所要時間:研修設計に2〜3時間)
次回のハラスメント研修に「SOGI(性的指向と性自認)に基づくハラスメント」の解説を追加しましょう。「どんな発言がハラスメントに当たるか」「当事者に接する際の配慮」「問題が起きたときの相談先」を具体的に説明することで、職場での配慮が高まります。
既存のハラスメント研修に「LGBTQのページを1〜2枚追加する」という小さな変更から始めることができます。
3. 「LGBTQ対応方針」を一文明文化する(所要時間:1〜2時間)
「当社はセクシュアリティや性自認に基づく差別・ハラスメントを禁止します」という一文を、ハラスメント防止方針や就業規則に追加することを検討してみましょう。「明文化すること」が「実際の行動基準」になります。
この一文を採用ページにも掲載することで、「この会社はLGBTQを受け入れている」というメッセージが社外にも伝わります。
まとめ:LGBTQフレンドリーな職場は「全員のため」
LGBTQフレンドリーな職場づくりは、「LGBTQ当事者のため」だけのものではありません。「誰もが自分らしく働ける職場」は、すべての社員にとって居心地の良い職場です。
心理的安全性が高い職場は、「LGBTQについても話せる職場」であることが多いです。多様性を受け入れる文化は、「違う意見も言える」「弱みを見せても大丈夫」という心理的安全性の土台でもあります。
「人事プロとして、誰も排除しない、誰も犠牲にしない組織を作る」という取り組みに、ぜひ一歩踏み出してほしいと思っています。「完璧な制度ができてから」ではなく、「今日できる一つから」始めることが大切です。
もっと深く学びたい方へ
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吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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