組織ネットワーク分析で「見えない組織の力」を可視化する
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組織ネットワーク分析で「見えない組織の力」を可視化する

#組織開発#経営参画#キャリア#制度設計#離職防止

組織ネットワーク分析で「見えない組織の力」を可視化する

「公式の組織図通りには仕事が進んでいない気がする」「影響力のあるキーパーソンが誰なのか、データでわかれば」「部門間の連携が悪い原因が、組織図ではわからない」——こういった悩みを持つ人事・組織開発担当者に最近注目されているのが、「組織ネットワーク分析(ONA: Organizational Network Analysis)」です。

組織ネットワーク分析は、「誰が誰と仕事上のやり取りをしているか」という関係性のデータを収集・分析することで、「公式組織図では見えない組織のダイナミクス」を可視化する手法です。

ある製薬系企業の組織開発担当者から、こんな話を聞きました。「開発部門と営業部門の連携が悪いと経営から言われていたが、組織図を見ても原因がわからなかった。ONA分析をしてみたら、ある中間管理職が情報の流れを遮断していることが見えた。その一人への対応だけで、部門間の情報共有が劇的に改善した」と。組織図や数値データだけでは見えなかった問題が、ネットワーク分析で初めて可視化されたという事例です。

今日は、組織ネットワーク分析の考え方と、人事・組織開発にどう活かせるかを考えてみたいと思います。


「公式組織図」と「実際の組織」のギャップ

組織図は「建前」を示す

多くの会社の組織図は、「誰が誰の上司か」「どのチームがどの部署に属するか」という正式な報告ラインを示しています。

しかし、実際の仕事の流れは、必ずしも組織図通りではありません。「別部署のAさんに相談すると何でも解決する」「プロジェクトが進む際は、いつも非公式にBさんが調整役になっている」「Cさんが退職したら、部門を跨いだ連携が一気に弱まった」——こういった「非公式な影響力・コネクション」が、実際の組織を動かしています。

組織の課題の多くは、「公式な制度・仕組みの問題」ではなく、「非公式な関係性・情報の流れの問題」に起因していることがあります。「なぜ施策が浸透しないのか」「なぜ部門間でいつも摩擦が起きるのか」——その答えが、組織ネットワークの中に隠れていることがあります。

「隠れたキーパーソン」が組織を動かしている

組織ネットワーク分析をすると、「組織図上は中間管理職だが、情報のハブになっており多くの人が相談に来ている」「新しい取り組みが始まるとき、必ずあの人が関わっている」という「隠れたキーパーソン」が見えてきます。

こういった人材の「退職リスク管理」「適切な役割付与」「組織変更時の影響検証」において、ネットワーク分析は有効な情報を提供します。

「隠れたキーパーソンが突然辞めた」という事態は、組織に大きなダメージを与えます。組織図だけを見ていると「中堅の社員が一人辞めた」という認識になりますが、実際には「情報の流れの要になっていた人が抜けた」という影響が出てきます。こういった人材を事前に把握し、適切にケアすること——これがONAの重要な活用場面の一つです。


組織ネットワーク分析の活用場面

変革推進のキーパーソン特定

組織変革・文化変革を進める際、「誰から変えていくか」という問いは重要です。

「公式のリーダー(役職者)」に変化を求めるだけでなく、「非公式に影響力を持つ人材」にも変革の担い手になってもらうことで、変革の浸透が加速します。組織ネットワーク分析は、「変革の伝播に最も効果的な人材」を特定するためのデータを提供します。

「なかなか変革が浸透しない」という課題を持つ組織では、「公式のトップダウン」だけでなく、「非公式のインフルエンサー」を巻き込む戦略が有効です。「誰がこの変革に共感してくれれば、周囲に伝わりやすいか」——これをデータで特定できることが、ONAの強みです。

離職リスクの早期発見

「組織ネットワーク上でのつながりが急激に薄まっている人材」は、「組織から気持ちが離れている(離職意向が高まっている)」サインである場合があります。

「特定の社員とのやり取りが減った」「特定チームのネットワーク密度が下がった」という変化を早期に検知することで、「予防的な関わり」が可能になります。

「突然辞めた」と感じる離職でも、振り返ると「数ヶ月前からコミュニケーションが減っていた」というケースが多いです。定量的なデータでその変化を追うことができれば、「離職を決意する前」に人事・マネージャーが介入できます。

部門間連携の「断絶点」を発見する

「部門間連携が悪い」という課題がある組織で、「どこで情報の流れが止まっているか」「どの組織間に連携がほとんどないか」を可視化できます。

「営業と開発の間で情報が流れていない」「本社と支社の連携が薄い」という課題を数値・グラフで示すことで、「どこを改善すべきか」の議論が具体的になります。

「部門間の連携が悪い」という問題は、よく「仕組みの問題」として語られますが、実際には「特定の人と人とのつながりが弱い」というネットワークレベルの問題であることが多いです。仕組みを変えるより前に、「誰と誰を繋げれば問題が解決するか」という視点でアプローチできるのがONAの強みです。


プロの人事はこう考える:ONA活用の注意点

「プライバシー」と「信頼」の問題を丁寧に扱う

組織ネットワーク分析には、「誰が誰とコミュニケーションしているか」というデータが必要です。このデータ収集・活用においては、「プライバシーへの配慮」と「社員の信頼」が最重要です。

「メールやチャットの内容を監視するのでは?」という不安を社員が持つと、分析以前に組織の信頼が壊れます。「分析の目的・方法・利用範囲を透明に説明する」「個人の特定ができない形での集計・分析を行う」「データの利用は組織改善目的に限定する」——こういったガイドラインを明確にすることが前提です。

ONAを導入する際に、事前の丁寧な説明と全員の同意を取ることを怠ると、「監視されているかのような」不安から、心理的安全性が下がるリスクがあります。ONAを活用するための前提条件として、「オープンで信頼できる組織文化」がある程度育っていることも重要です。

「分析」より「対話」を重視する

組織ネットワーク分析の結果は「現状の可視化」であり、「そこから何をすべきか」という意思決定の材料です。

「ネットワーク分析でこう出た→だからこうする」という機械的な対応ではなく、「分析結果を基に、現場のマネージャーや当事者と対話する」というプロセスが重要です。データは「対話の出発点」であり、「答え」ではありません。

「分析結果を見て初めて気づいた」という発見がある一方で、「現場にいる人はすでに体感していた」という問題もあります。ONAのデータは「現場の感覚を裏付け、議論を具体化する」ために使うものです。

「継続的な測定」で変化を追う

組織ネットワークは「一時点のスナップショット」だけでなく、「時系列変化を追う」ことで価値が増します。

「組織変革施策の前後でネットワーク構造がどう変わったか」「特定部署の離職率増加と同時期にネットワークの変化があったか」——時系列データとして蓄積することで、「施策の効果検証」に活用できます。


明日からできる3つのこと

1. 「誰が情報ハブになっているか」を直感で書き出す(所要時間:30分)

まず、「組織内で最も多くの人から相談を受けている人は誰か」「チームを跨いで調整役になっている人は誰か」を直感で書き出してみましょう。ネットワーク分析ツールを使わなくても、「組織の非公式なキーパーソン」を意識的に把握することから始められます。

その人が今、どんな状況にあるか——満足しているか、疲弊していないか、次のキャリアをどう考えているか——を把握することが、組織リスクの管理につながります。

2. 「部門間の連携状況」をヒアリングする(所要時間:各30分×3〜5人)

「他部署との仕事のやり取りはスムーズですか?」「情報が流れにくいと感じる部門はありますか?」という質問を複数の社員にヒアリングしてみましょう。定性的な情報からでも、「連携の断絶点」が見えてきます。

ヒアリング先は、複数部署に関わる仕事をしているプロジェクトマネージャーや、部門横断のコミュニケーションが多い社員を選ぶと、より全体像が見えやすくなります。

3. 「ONA活用事例」を3つ調べる(所要時間:1〜2時間)

組織ネットワーク分析を実際に活用している企業の事例を3つ調べてみましょう。「どんな課題に使ったか」「どんなデータを収集したか」「どんな結果が得られたか」を学ぶことで、自社への適用イメージが湧いてきます。

ONA専門のコンサルタントや、HRテックベンダーにヒアリングすることも一つの方法です。「自社の規模・課題に合ったアプローチ」を知ることで、「どこから始めるか」の判断がしやすくなります。


まとめ:「見えない組織」を見ることが、組織開発の精度を上げる

組織の課題の多くは、「公式な組織図や制度では見えない部分」にあります。

組織ネットワーク分析は、「組織の実際の動き方」を可視化することで、「より精度の高い組織開発・人材配置・離職リスク管理」を可能にします。

ただし、データだけが答えではありません。「データを基に人と対話し、組織の実態を理解する」——この姿勢が、組織ネットワーク分析を「使いこなす」ための核心です。また、ツールの前に「組織への信頼と透明性」を整えることが、ONAを機能させるための土台になります。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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