
HRパートナー制度を「名前だけ変えた人事担当者」にしないために
目次
- HRBPが注目される背景
- 「人事部門からの施策押し付け」への反省
- ビジネスの「変化速度」への対応
- HRBPが「機能しない」パターン
- 現場に近いが、「人事の専門性」が低い
- 人事部門との「連携」が弱い
- 「指標」が設定されていない
- プロの人事はこう考える:HRパートナー制度の設計
- 「要件定義」を明確にする
- 「採用基準と育成計画」をセットで設計する
- 「CoE(Center of Excellence)」との連携設計
- 明日からできる3つのこと
- 1. 「現在の人事担当者の役割」を整理する(所要時間:2〜3時間)
- 2. 「担当事業部門のトップに課題を聞く」(所要時間:各1時間)
- 3. 「自社の財務指標と事業目標を理解する」(所要時間:2〜3時間)
- まとめ:HRBPは「役割の変化」ではなく「思考の変化」
- もっと深く学びたい方へ
HRパートナー制度を「名前だけ変えた人事担当者」にしないために
「事業部門に人事担当者を配置して、HRビジネスパートナー(HRBP)にしたい」「人事を現場に近づけるために、HRパートナー制度を導入したい」——大企業を中心にHRビジネスパートナー制度への移行が進んでいます。
しかし、「HRBP制度を導入したが、実態は人事部門に所属したままの人事担当者で、現場との関係は変わらなかった」「HRBPという名前になっただけで、仕事の内容は以前と変わらない」——こういった声も聞こえてきます。
ある大手サービス業の人事部長が話してくれました。「3年前にHRBP制度を導入して、10人の人事担当者を各事業部に配置した。でも実態は『現場から上がってくる人事手続きを処理する人』になってしまっていた。『現場のビジネス課題を人事の視点で解決する』という役割が機能していなかった」と。名前と組織図を変えるだけでは、本質的な変革は起きません。
今日は、HRパートナー制度を「機能させる」ための考え方について一緒に整理してみたいと思います。
HRBPが注目される背景
「人事部門からの施策押し付け」への反省
従来型の人事部門が持つ課題の一つが、「現場の実態を理解しないまま、本社の人事施策を展開する」という傾向です。
「人事部門が設計した評価制度が、現場の業務と合っていない」「研修プログラムが現場のニーズとずれている」「採用した人材が現場の求める人物像と違う」——「人事部門と現場のギャップ」が、人事施策の効果を下げる原因になっていました。
HRBPは「現場に近い場所に人事担当者を置くことで、現場の課題を理解した上で人事施策を展開する」という発想から生まれました。
「人事の仕事の質の7〜8割は"知る"の質で決まる」という考え方があります。HRBPが「事業を知る」「現場の組織を知る」「現場の人を知る」ことで、人事施策の質が根本から変わる——この発想がHRBPの背景にあります。
ビジネスの「変化速度」への対応
事業環境の変化が早くなる中で、「人事部門に相談して、施策が決まるまで待つ」という速度感では追いつかない場面が増えています。
「現場のビジネス課題に、人事の視点から素早く対応する」という役割がHRBPに求められています。「採用の判断を早くしてほしい」「チームの組み替えを急ぎでやりたい」——こういったニーズに現場に近いHRBPが対応することで、ビジネスの速度に合った人事サポートが可能になります。
HRBPが「機能しない」パターン
現場に近いが、「人事の専門性」が低い
HRBPが「現場の人たちに好かれているが、人事の専門家としての信頼が低い」という状態では、「人事のアドバイスが機能しない」という問題が起きます。
「採用基準の設計」「評価制度の運用」「労務リスクの管理」「育成プログラムの設計」——こういった人事の専門知識を持った上で現場と対話できなければ、「何でも聞いてくれるが、答えを持っていない」というポジションになってしまいます。
「現場との関係が良いHRBP」と「専門性の高いHRBP」の両方が求められますが、どちらか一方だけでは機能しません。「現場のビジネス課題を理解できる」かつ「人事の専門知識で解決策を提案できる」という両輪が必要です。
人事部門との「連携」が弱い
HRBPが現場に近くなりすぎると、「人事部門の方針や専門家との連携が弱まる」という問題が起きることがあります。
「現場の要望を人事部門に伝えるだけの中継役」「人事部門の施策を現場に説明するだけの広報役」——これでは、HRBPとしての付加価値が出ません。「現場のビジネス課題を理解した上で、人事の専門家と連携して解決策を作る」という役割が機能するためには、人事部門との強い連携が必要です。
「現場の味方になりすぎて、人事部門の施策に反対してしまう」というHRBPも問題です。「現場と本社の橋渡し役」というのが本来の役割であり、どちらか一方の立場に偏ってしまうと機能しません。
「指標」が設定されていない
HRBPの役割が曖昧なまま導入されると、「何をもってHRBPが成功しているか」がわからなくなります。
「担当事業部門の離職率」「採用充足率」「エンゲージメントスコア」「管理職研修後のマネジメント改善率」——HRBPが担う指標を明確にすることで、「HRBPが何をすべきか」が具体的になります。
指標がないと「忙しく動いているが、何に貢献しているのかわからない」という状態になりやすい。指標の設定は「HRBPの目標を明確にする」だけでなく、「HRBPの価値を経営に見せる」ためにも重要です。
プロの人事はこう考える:HRパートナー制度の設計
「要件定義」を明確にする
HRBP制度を設計する際の出発点は、「HRBPに何を期待するか」を明確にすることです。
「事業部門の人事課題を特定して、解決策を提案・実行する」「採用・育成・評価の現場運用を支援する」「人事部門と事業部門の橋渡し役になる」——この役割定義が曖昧なまま始めると、「HRBPが何をすべきかわからない」という状況になります。
事業部門のトップと人事部門のトップが「HRBPに何を期待するか」を事前に合意していることが、制度成功の前提条件です。この合意がないと、HRBPは「現場からは『もっと現場の立場になって』と言われ、人事部門からは『本社の施策をちゃんと展開して』と言われる」という板挟みになります。
「採用基準と育成計画」をセットで設計する
「既存の人事担当者をHRBPと呼ぶ」だけでは制度は機能しません。「HRBPに必要なスキル・知識」を明確にし、「育成計画」をセットで設計することが重要です。
「事業理解・財務知識(P/L・BS・KPIを読む力)」「戦略的思考力(事業課題を人材・組織の観点から分析する力)」「ステークホルダーマネジメント(事業部門と人事部門の双方と対話する力)」——こういったスキルを意図的に育成する仕組みが、HRBP制度の質を決めます。
「HRBPになるための研修プログラム」「事業部門でのOJT期間の設定」「定期的なスキル評価とフィードバック」——HRBPのスキルを組織として育てる投資なしに、「名前だけ変わったHRBP」から抜け出すことはできません。
「CoE(Center of Excellence)」との連携設計
大企業でHRBP制度を導入する場合、「HRBP」と「CoE(採用・育成・報酬などの専門家チーム)」「オペレーション(人事手続きを担うシェアードサービス)」の3層構造を設計することが一般的です。
HRBPは「現場のニーズを把握してCoEに連携し、CoEが専門知識で解決策を設計する」という役割分担を明確にすることで、それぞれの専門性が活かされます。
この3層構造がない状態でHRBPだけを設けると、「HRBPが採用も育成も制度設計も手続きも全部やる」という何でも屋になってしまいます。「HRBPが担う役割」と「CoEやオペレーションが担う役割」を明確に分けることが、HRBPが本来の役割に集中するための前提条件です。
明日からできる3つのこと
1. 「現在の人事担当者の役割」を整理する(所要時間:2〜3時間)
今の人事担当者の仕事の中で、「現場との対話・課題発見」「専門的な制度設計・運用」「事務的な手続き・管理」がそれぞれ何%を占めているかを整理してみましょう。「どの役割に時間が偏っているか」が見えることで、HRBP化の方向性が見えてきます。
「事務的な手続き・管理」が全体の60%以上を占めているなら、まず「事務作業のシステム化・省力化」からアプローチする方が、HRBPの役割変容への近道になります。
2. 「担当事業部門のトップに課題を聞く」(所要時間:各1時間)
担当している(あるいはこれから担当する)事業部門のトップに「今、人材・組織面で最も解決したいことは何ですか?」を聞いてみましょう。「現場が何を求めているか」を直接把握することが、HRBPとしての価値提供の出発点です。
「人事部門に言ってもなかなか動いてもらえない」「この課題は人事に言っていいのかわからない」という声が出てくることがあります。それは「現場と人事の間の対話の不足」のサインです。「何でも相談してください」という姿勢を示すことが、HRBPとしての第一歩になります。
3. 「自社の財務指標と事業目標を理解する」(所要時間:2〜3時間)
自社の直近の決算・事業計画・重点KPIを読んでみましょう。「事業の言葉で話せる人事」になるための基礎として、「今期の事業の優先課題・利益状況・主要KPI」を把握することが重要です。
「P/Lを読んで、どの部門が収益に貢献しているか」「KPIのどの指標が事業の成長を示しているか」——これを把握することで、「人事施策がどの事業指標に影響するか」を語れるようになります。
まとめ:HRBPは「役割の変化」ではなく「思考の変化」
HRパートナー制度の成否は、「名前や組織図を変えること」ではなく、「人事担当者の思考が変わること」にかかっています。
「人事部門から施策を届ける」から「事業の課題を人事の視点で解決する」へ——この思考の変化が、HRBPが「事業のパートナー」として機能するための根本です。
制度設計だけでなく、「HRBPとして動く人材の育成」に投資することが、制度を機能させる鍵です。「HRBPが事業のパートナーとして信頼される」組織では、人事施策の効果が格段に高まります。それは「人事が経営に近い場所で機能している」という状態の具体的な表れです。
もっと深く学びたい方へ
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吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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