
管理職の仕事はなぜこんなに大変になったのか——人事が支援できること
目次
- なぜ管理職の負荷は増えているのか
- 「プレイング比率の高さ」という構造問題
- 「ハラスメント対応・メンタル不調対応」の負荷増大
- 「管理職に見合う処遇」の問題
- よくある失敗パターン
- 失敗1:「管理職研修を増やす」で負荷に対処しようとする
- 失敗2:「管理職に全部任せる」
- 失敗3:「管理職の選抜基準が古い」
- プロの人事はこう考える
- 「管理職の役割の再定義」
- 「管理職に対する人事サポートの強化」
- 「管理職選抜基準」の見直し
- 「管理職の処遇の見直し」を経営に提言する
- 明日からできる3つのこと
- 1. 「管理職が最も時間を使っている業務」を確認する(1〜2時間)
- 2. 「管理職が最も困っていること」を把握する(1〜2時間)
- 3. 「管理職サポート窓口」の設置を検討する(今月中に)
- まとめ
- もっと深く学びたい方へ
管理職の仕事はなぜこんなに大変になったのか——人事が支援できること
「管理職をやりたがる社員が減っている」「管理職の負荷が高くなって、燃え尽きるケースが増えている」——管理職の疲弊と「管理職忌避」の問題は、多くの企業で深刻化しています。
管理職は「プレイングマネージャー」として個人の業務もこなしながら、部下の育成・評価・採用・面談・コンプライアンス対応・経営との調整——と求められる役割が増え続けています。「管理職になっても良いことがない」という感覚が広がっています。
この記事では、管理職の負荷構造を理解し、人事がどう支援できるかを考えます。
なぜ管理職の負荷は増えているのか
「プレイング比率の高さ」という構造問題
日本企業の管理職の多くが「プレイングマネージャー」であり、個人の業務(プレイング)と管理業務(マネジメント)の両方を担っています。
「部門の実務の中核も担いながら、部下の育成・評価・1on1・採用面接・経営へのレポートもやる」——この構造では、マネジメントに割ける時間が圧倒的に不足します。
「管理職になっても、個人の業務は減らない」というケースでは、「管理職になることで仕事が増えただけ」という状況が生まれます。これが「管理職になりたくない」という意識の根本原因の一つです。
「ハラスメント対応・メンタル不調対応」の負荷増大
ハラスメント防止の意識が高まるにつれ、管理職に「適切なコミュニケーション」「部下への適切なフィードバック」の高い専門性が求められるようになっています。
「部下への指導がハラスメントにならないか」「部下がメンタル不調になったとき、どう対応すれば良いか」——管理職がこれらの判断を求められながら、具体的なスキルや支援なしに対処することへのプレッシャーが増しています。
「管理職が過ちを犯したときのリスク(ハラスメント認定・法的問題)」も高まっており、心理的な負荷が大きくなっています。
「管理職に見合う処遇」の問題
管理職手当や役職手当は、担当する業務量・責任の重さに対して見合っていない企業が多い。「残業代がなくなり、手当では埋め合わせにならない」という状況が「管理職になるとトータルで収入が下がる」という逆転現象を生む場合があります。
「責任は増えるが、処遇が変わらない(または下がる)」という状況が、管理職への魅力を下げています。
よくある失敗パターン
失敗1:「管理職研修を増やす」で負荷に対処しようとする
管理職の問題行動・スキル不足への対策として「管理職研修を増やす」というアプローチを取る。でも「忙しい管理職に研修への参加をさらに求める」ことは、負荷を増やすことになりかねません。
「管理職に何を求めるか(役割の明確化)」と「管理職が使える時間・リソースの確保」が先であり、研修はその後の話です。
失敗2:「管理職に全部任せる」
「部下の育成・評価・メンタルフォロー・採用は管理職の仕事」と定義し、人事・経営からのサポートなしに管理職に全権を委ねる。
管理職が「孤独に全てを抱える」構造では、限界を超えた管理職から離職・休職が起きます。「管理職を支援する人事の役割」を明確にすることが重要です。
失敗3:「管理職の選抜基準が古い」
「個人の業績・専門スキルが高い人を管理職にする」という選抜基準が変わっていない。でも「個人の業績が高い」という特性と「チームを率いるマネジメント能力」は異なります。
「優秀なプレイヤーが優秀なマネージャーになるとは限らない」という認識が選抜に反映されていなければ、「管理職になったが苦しんでいる人」と「管理職向きだが登用されない人」が両方存在し続けます。
プロの人事はこう考える
「管理職の役割の再定義」
プロの人事が管理職の負荷問題に取り組むとき、「管理職に何を求めるか(役割)」の再定義から始めます。
「管理職が必ずやるべきこと」と「管理職がやらなくても良いこと(他者・システムに移譲できること)」を整理することで、「管理職が集中すべき高付加価値の仕事」が見えてきます。
「部下との1on1・育成・チームの方向設定」は管理職がすべき高付加価値の仕事です。「承認・連絡調整・定常的な事務処理」は可能な限り効率化・移譲すべき仕事です。この仕分けが管理職の負荷を構造的に下げます。
「管理職に対する人事サポートの強化」
管理職が一人で抱えている「困りごと」を人事がサポートする仕組みを強化することが重要です。
- ハラスメント・メンタル不調の相談窓口:管理職が「これはハラスメントになるか?」「部下がメンタル不調かもしれないが、どう対応すれば良いか?」を気軽に相談できる人事窓口
- 管理職同士の悩み共有の場:定期的な管理職同士の情報交換・悩み共有の場(ピアサポート)
- 人事からの定期的なフィードバック:「あなたのチームのエンゲージメントスコアと対策の相談」
「孤独な管理職」を「支援されている管理職」に変えることが、管理職の定着と能力向上の土台です。
「管理職選抜基準」の見直し
管理職を「個人の業績・年功」ではなく「マネジメント適性(人を育てることへの関心・チームを率いる能力・コミュニケーション力)」で選抜する基準への転換が重要です。
「管理職適性アセスメント」の活用・「管理職候補期間中の観察・評価」・「360度フィードバックの活用」——これらが「向いている人を選ぶ」選抜精度を高めます。
「向いていない人を管理職にすること」は、本人にとっても組織にとっても不幸です。
「管理職の処遇の見直し」を経営に提言する
「管理職の負荷に見合う処遇になっているか」を定期的に検証し、見合っていない場合は経営に見直しを提言することが人事の役割です。
「管理職手当の水準」「残業代がなくなる管理職の総収入の変化」「責任の重さとコンペンセーション(報酬)のバランス」——これらを数字で示すことで、「管理職になることへの経済的インセンティブ」の見直しを経営に促せます。
明日からできる3つのこと
1. 「管理職が最も時間を使っている業務」を確認する(1〜2時間)
管理職数名に「先週の業務を時間別に分類してください(マネジメント・個人業務・会議・事務処理・その他)」と依頼してください。マネジメントに使えている時間がどれくらいかが見えてきます。
2. 「管理職が最も困っていること」を把握する(1〜2時間)
管理職5名前後に「管理職として最も困っていること・しんどいことを3つ教えてください」というインタビューをしてください。「育成が難しい」「ハラスメントが怖い」「時間が足りない」——具体的な困りごとが、支援設計のヒントになります。
3. 「管理職サポート窓口」の設置を検討する(今月中に)
管理職が「ハラスメント判断・部下の問題対応・評価の難しい事例」などを相談できる「人事の管理職サポート窓口(月1回の面談・相談メールなど)」の設置を検討してください。管理職の「孤立感の軽減」が、燃え尽きを防ぐ第一歩になります。
まとめ
管理職の負荷問題は「管理職個人の能力・根性の問題」ではなく、「組織が管理職に求めることと、提供するサポートのアンバランスの問題」です。
「人事のプロに最も必要な姿勢はしつこさ」——管理職の負荷を構造的に下げるための取り組みは、一朝一夕では変わりません。粘り強く、管理職と対話しながら、変化を積み重ねることが重要です。
もっと深く学びたい方へ
管理職育成・マネジメント強化・組織開発を体系的に学びたい方へ。
人事のプロ実践講座では、管理職支援と組織パフォーマンス向上の実践知識を経営目線で学べます。
管理職支援・マネジメント強化に悩む人事仲間と情報交換したい方は、人事図書館もどうぞ。
吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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