
クロスファンクショナルチームがうまくいかない理由と人事の処方箋
クロスファンクショナルチームがうまくいかない理由と人事の処方箋
「部門横断のプロジェクトチームを作ったが、3ヶ月後には形骸化していた」「各自が自部門の利益を優先して、チームとしての意思決定ができない」——クロスファンクショナルチーム(CFT)の失敗事例はどこの企業でも起きています。
組織の縦割りを超え、部門間の壁を越えて価値を生む——それがCFTの可能性です。でも「チームを作ること」と「チームが機能すること」は別の話です。人事がどうCFTを支援するかが、成否を分けます。
この記事では、クロスファンクショナルチームを機能させるための人事の関わり方をお伝えします。
なぜCFTは機能しないのか
構造的原因1:所属部門の優先度が常に高い
CFTのメンバーは「本業(所属部門の業務)」を持ちながら、「兼業(CFTの活動)」をしています。評価される先が所属部門のマネージャーである以上、本業が忙しくなるとCFTの優先度が下がります。「CFTに参加しています」という状態になっても、実質的な貢献が薄い。
この構造を変えるには「CFTへの貢献が評価される」仕組みが必要ですが、これを整備せずにCFTを設置すると、時間が経つにつれてチームの活動が停滞します。
構造的原因2:リーダーが権限を持っていない
CFTのリーダーに任命された人が、「部門の壁を超えた意思決定権」を持っていないケースが多い。「このプロジェクトを進めるために部門Aのリソースを使いたい」という場合でも、部門Aのマネージャーの承認が必要になります。縦の権限構造がCFTの横断的な動きを阻みます。
構造的原因3:「共通のゴール」への合意が薄い
複数の部門が集まるCFTで「このプロジェクトで何を達成するか」についての合意が表面的にしかない場合、各自が「自分の部門にとって有利な方向」に議論を引っ張ります。共通のゴールより部門間の利害調整が優先されると、CFTは機能しなくなります。
よくある失敗パターン
失敗1:重要なポジションを「担当者レベル」で埋めてしまう
本当の意味でのCFTは、意思決定ができる人がチームにいることが必要です。「担当者を出せばいい」という各部門の姿勢でメンバーが選ばれると、「持ち帰って確認してきます」が連発され、意思決定のスピードが出ません。
失敗2:成果の定義が曖昧なまま走り出す
「部門間の連携を強化するためのCFT」という曖昧な目的では、3ヶ月後に「何を達成したか」が評価できません。「この期末までに〇〇の指標を△から□に改善する」という具体的な成果定義が、チームを動かし続ける燃料になります。
失敗3:チームの対話の「質」を誰も見ていない
CFTの会議が「報告会」になっていて、本当の議論がされていないことがあります。「どのメンバーが発言しているか」「決定と行動がセットになっているか」「困っていることを言える雰囲気があるか」——この「会議の質」を誰かが観察し、フィードバックすることが大切です。
プロの人事はこう考える
知る:CFTが成功する3つの条件を理解する
CFTが機能するためには3つの条件が揃っていることが重要です。
①スポンサーシップ:経営レベルの後ろ盾があること。CFTのミッションを経営が支持し、必要なリソースを確保できる仕組みがあること。
②明確なミッションと成果指標:チームが「これを達成するために存在する」という共通の旗があること。この旗がないと各自が好き勝手に動きます。
③メンバーのコミットメント:「CFT参加は自分のキャリアにとって意味がある」という動機づけがあること。コミットメントなき参加者がいるとチームの足を引っ張ります。
考える:人事がCFTに貢献できる3つの役割
CFT設計段階での支援:「どんなメンバー構成が必要か」「誰をリーダーにするか」「評価はどうするか」という設計支援。特に評価設計は人事の専門性が直接活きる場面です。
CFT運営中の支援:「チームの健全性」のモニタリング。定期的なパルスサーベイや、リーダーとの1on1を通じて、チーム内の問題を早期に把握します。
CFT終了後のフォロー:プロジェクトが終わった後の「学習の収穫」。「このCFTで何を学んだか」「次のCFTに活かせる知恵は何か」を組織知として蓄積します。
動く:CFTへの「貢献評価」を制度設計する
CFTを機能させる最大の人事的介入は、「CFTへの貢献が評価に反映される仕組み」を作ることです。
設計の観点:
- 所属部門マネージャーとCFTリーダーの「複眼評価」を取り入れる
- CFTの成果指標を個人の評価目標に組み込めるようにする
- CFTリーダーの経験を「将来の幹部候補としての経験値」として記録する
この仕組みがあると、「CFTへの参加が自分にとって有益」という認識が広がり、次のCFTへのコミットメントが高まります。
振り返る:CFT完了後の成果と学びを整理する
プロジェクト終了後、チーム全体での振り返りセッションを人事が設計します。「達成できたこと」「うまくいかなかったこと」「次に活かしたいこと」を整理し、組織知として蓄積します。
この振り返りを繰り返すことで、CFTを機能させるための「自社なりのやり方」が徐々に形成されていきます。
明日からできる3つのこと
1. 現在のCFTの「評価設計」を確認する(30分)
今動いているCFTがあれば、「メンバーの貢献はどう評価されているか」を確認します。評価設計がなければ、それが機能不全の原因の一つかもしれません。
2. CFTリーダーとの30分の対話を設ける(30分)
CFTリーダーに「今のチームの課題は何か」「人事として手伝えることは何か」を聞きます。具体的な課題が見えると、次のアクションが決まります。
3. 次のCFT設計の「評価方法」を先に決める(1時間)
次にCFTを設置する計画があれば、立ち上げ前に「評価はどうするか」「リーダーとメンバーの責任範囲はどこまでか」を決めておきます。設計を後から変えると混乱が生まれます。
まとめ
クロスファンクショナルチームは「部門の壁を越える器」ですが、器だけ作っても中身が機能しなければ意味がありません。
「人事の仕事の質の7〜8割は"知る"の質で決まる」という言葉は、CFT支援にも当てはまります。チームがどんな状態にあるかを知り、何が機能していて何が機能していないかを把握することが、的確な支援の出発点です。組織の横断的な動きを支える人事の仕事は、事業の変化対応力を上げる重要な貢献です。
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吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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