
部門間連携がうまくいかない組織で、人事ができること
目次
- なぜ部門間連携は難しいのか
- 目標が「タコツボ」を作る
- 「誰が決めるか」が不明確
- 「相手のことを知らない」
- よくある失敗パターン
- 失敗①:「合同会議」を増やしても解決しない
- 失敗②:「仲良くしよう」というアプローチ
- 失敗③:問題が起きてから動く
- プロの人事はこう考える
- 知る:連携の障壁を「構造」「プロセス」「文化」で分析する
- 考える:「連携が生まれる仕組み」を設計する
- 動く:「クロスファンクショナルな接点」を一つ作る
- 振り返る:連携の「成果」を測る
- 明日からできる3つのこと
- 1. 「一番連携が取りにくい部門」と「その原因」を特定する(30分)
- 2. 他部門の「仕事の一日」を体験させる機会を一つ設ける(調整)
- 3. 採用の面接に、配属部門以外の方を一人入れる(次の採用から)
- まとめ
部門間連携がうまくいかない組織で、人事ができること
「人事と現場の連携が取れていない」「営業と開発の間に壁がある」「バックオフィスと事業部の溝が深い」——部門間の連携課題は、多くの組織で見られる問題です。
部門間連携の問題は、一見すると「コミュニケーション不足」のように見えます。でも多くの場合、コミュニケーションの量の問題ではなく、「目標の設計」「仕組み」「文化」に根本原因があります。
「もっと連絡を取り合ってください」と言っても、構造的な問題が解消されなければ連携は改善しません。逆に、組織設計と仕組みを変えることで、「意識しなくても連携が生まれる状態」を作ることができます。
この記事では、部門間連携が機能しない原因と、人事が取れるアプローチをお伝えします。
なぜ部門間連携は難しいのか
目標が「タコツボ」を作る
各部門がそれぞれの部門目標を持つ組織では、部門最適の行動が全社最適と相反することがあります。
「うちの部門のKPIを達成するために、他部門の業務は後回しになる」——こうした構造は、個人の善意に関係なく、目標設計によって生まれます。
部門間連携の問題を「人の問題(コミュニケーション不足、協力意識の欠如)」だと診断すると、的外れな打ち手になります。「目標の設計が部門間の協力を阻んでいないか」という構造への問いが重要です。
「誰が決めるか」が不明確
部門間をまたがる課題が起きたとき、「どちらの部門が解決するか」「誰が最終判断するか」が不明確だと、問題が宙に浮きます。「あちらに連絡してください」「こちらは担当外です」という応答が続き、顧客や社内の当事者が困る状態が生まれます。
権限と責任の所在が不明確な領域(グレーゾーン)の存在が、部門間連携の摩擦を生みます。
「相手のことを知らない」
「営業は開発の大変さをわかっていない」「開発は営業の現場感覚を理解していない」——相互理解の不足が、コミュニケーションのストレスを増やします。
相手の仕事の流れ・制約・優先事項を知らないまま「連携してほしい」と言っても、摩擦は生まれやすい。「相互理解の機会」を設計することが、連携の質を変えます。
よくある失敗パターン
失敗①:「合同会議」を増やしても解決しない
「部門間の連携を強化するために、合同会議を月1回設ける」という打ち手はよく取られますが、それだけでは根本的な変化は起きないことが多いです。
会議の場では表面的な情報共有は起きますが、「実際の業務での協力」は別の問題です。会議は手段であり、それ自体が目的ではありません。「合同会議で何を決め、何を変えるか」のゴールが設計されていないと、会議はただの時間消費になります。
失敗②:「仲良くしよう」というアプローチ
懇親会・チームビルディングイベントで部門間の関係性を良くしようとするアプローチは、短期的な関係改善には有効なこともありますが、構造的な問題は解決しません。
「仲の良い関係の中でも、目標設計の問題があれば連携は機能しない」——これが現実です。懇親会は「接触頻度を増やし、顔の見える関係を作る」という意味で価値がありますが、それだけに頼ることには限界があります。
失敗③:問題が起きてから動く
部門間連携の問題は、「トラブル」として表面化したときに初めて「問題」として認識されることが多いです。でも、その段階では「個別の事案への対応」に終始し、根本的な連携の仕組みを変えることが後回しになります。
「問題が起きる前に連携の仕組みを設計する」という予防的なアプローチが、長期的な組織の健全性を高めます。
プロの人事はこう考える
知る:連携の障壁を「構造」「プロセス」「文化」で分析する
部門間連携の問題を分析するとき、3つのレベルに分解すると原因が見えやすくなります。
構造の問題:組織設計・目標設計・権限と責任の設定が連携を阻んでいないか
プロセスの問題:部門間をまたがる業務のルール・引き継ぎ・意思決定プロセスが機能しているか
文化の問題:他部門への関心・相互理解・協力意欲が文化として根づいているか
それぞれに対して異なるアプローチが必要です。「構造の問題」は人事制度・組織設計の見直し、「プロセスの問題」は業務フローの整備、「文化の問題」は相互理解の機会設計が有効です。
「人事の仕事の質の7-8割は"知る"の質で決まる」という観点から、部門間連携の課題も「どのレベルの問題か」を正確に知ることが、効果的な打ち手の前提です。
考える:「連携が生まれる仕組み」を設計する
人事が部門間連携に貢献できる最も効果的な方法の一つは、「自然に連携が生まれる仕組み」を設計することです。
異動・配置の設計:部門間の異動を定期的に行うことで、「相手の立場を経験した人材」が両部門に生まれます。
部門横断プロジェクト:異なる部門のメンバーが一つのチームとして課題に取り組む機会を設計することで、相互理解と協力関係が生まれます。
評価設計での協力意欲の反映:評価の中に「他部門との協力」という観点を入れることで、連携が「評価される行動」として認知されます。
動く:「クロスファンクショナルな接点」を一つ作る
部門間連携改善の第一歩として、「異なる部門のメンバーが共通の課題に取り組む場」を一つ作ることをおすすめしています。
例えば、「採用における営業・人事・開発の合同ブリーフィング」「新製品開発における開発・マーケティング・営業の合同レビュー」——こうした「一点の接点」を意図的に設計することで、相互理解が生まれ始めます。
「小さく始めて、成功事例を作って横展開する」——最初は一つの課題・一つのプロジェクトで始めて、うまくいったら横展開していくアプローチが有効です。
振り返る:連携の「成果」を測る
部門間連携の改善は、「連携の質」という定性指標が中心ですが、定量的な確認も可能です。
・部門間の業務引き継ぎのエラー率・リードタイム ・部門間の課題発生頻度と解決速度 ・サーベイの「他部門との協力関係への満足度」
こうした指標でモニタリングすることで、連携改善の効果が可視化されます。
明日からできる3つのこと
1. 「一番連携が取りにくい部門」と「その原因」を特定する(30分)
現在の組織で「一番部門間連携がうまくいっていない組み合わせ」を特定してみましょう。その原因が「構造・プロセス・文化」のどれかを分析することが、打ち手の設計につながります。
着手ポイント:部門をまたいだトラブルが過去に発生しているとすれば、そこが最も優先度の高い課題領域です。
2. 他部門の「仕事の一日」を体験させる機会を一つ設ける(調整)
「営業が一日開発の現場を見学する」「開発チームが顧客訪問に同行する」——こうした相互体験の機会を一つ設計してみましょう。相手の仕事を「体験で理解する」ことが、連携の質を根本から変えることがあります。
着手ポイント:まず一人・一回から始めるだけで十分です。
3. 採用の面接に、配属部門以外の方を一人入れる(次の採用から)
次の採用面接に、「配属予定部門と密に連携する別部門の方」を入れてみましょう。「この人と一緒に仕事ができるか」を複数部門の視点で確認することが、採用後の部門間連携を円滑にする一歩になります。
着手ポイント:面接参加のお願いをするだけで始められます。
まとめ
部門間連携の問題は、「コミュニケーションの問題」ではなく多くの場合「構造とプロセスの問題」です。人事は、組織設計・目標設計・配置・評価設計を通じて、「連携が生まれやすい仕組み」を作ることができます。
「経営数字からの発想×組織状況からの発想=両利きの人事」——部門間連携の問題も、「事業成果への影響(売上ロス・コスト・リスク)」と「組織状況(構造・プロセス・文化の課題)」の両方から捉えることが、効果的な打ち手につながります。
まず一つの連携接点を設計して、うまくいったら広げていく。その積み重ねが、連携する組織を育てます。
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吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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