
職場のコンフリクトを「なかったこと」にしてはいけない理由
目次
職場のコンフリクトを「なかったこと」にしてはいけない理由
「部門間でいつも対立があって、人事としてどう関わればいいかわからない」
職場のコンフリクト(対立・摩擦)をどう扱うかは、人事の難しいテーマの一つです。コンフリクトが生じると、多くの人事はまず「仲裁に入って収める」「なかったことにする」という方向に動きがちです。でも、コンフリクトを安易に「解決した」ように見せることは、往々にして問題を先送りにするだけです。
実は、コンフリクトには「良いコンフリクト」と「悪いコンフリクト」があります。人事がこの違いを理解して、コンフリクトを適切にマネジメントできると、組織の意思決定品質が上がり、イノベーションが生まれやすくなります。この記事では、職場のコンフリクトマネジメントについて、人事の視点から考えてみたいと思います。
なぜコンフリクトマネジメントは難しいのか
コンフリクトを「悪」として忌避する文化
日本の職場では、コンフリクト(対立)を「悪いもの」として扱う傾向があります。「和を乱す」「空気を読まない」「会議で否定的なことを言う」という行動は抑制されがちです。
しかしこれは、「表面的な調和」と「本質的な問題解決」を混同していることから生まれる誤解です。表面的な調和が保たれる一方で、「根本的な意見の違いが解消されないまま、みんなが内心で不満を持っている」という状態は、長期的には組織の機能不全につながります。
問題は「コンフリクトがあること」ではなく、「コンフリクトが健全な形で扱われていないこと」なのです。
「タスクコンフリクト」と「関係コンフリクト」の混同
コンフリクトには、大きく2種類あります。
タスクコンフリクト:仕事の進め方、方針、意思決定に関する意見の違い。「どの戦略が正しいか」「どこに優先順位を置くか」という議論がこれに当たります。このタイプのコンフリクトは、適度であれば意思決定の質を高め、イノベーションの源泉になります。
関係コンフリクト:人間関係の感情的な軋轢。「あの人が嫌い」「あの上司のやり方が許せない」というものです。このタイプのコンフリクトは、組織に有害で、パフォーマンスを低下させます。
多くの職場では、この2種類が混在・混同されており、「タスクコンフリクトを議論しているうちに、関係コンフリクトに発展してしまう」という悪化パターンが起きています。人事がこの区別を持って介入することが、コンフリクトマネジメントの第一歩です。
コンフリクトへの関わり方を学んでいないマネジャー
マネジャーはコンフリクトの最前線に立つ人たちですが、多くのマネジャーは「コンフリクトをどう扱うか」のスキルを体系的に学んでいません。
「とにかく仲良くしてほしい」と言う、「二人が問題なら一人を異動させる」という強引な対処をする、「放置して自然解決を待つ」——こういう関わり方では、問題は解決しません。マネジャーが「コンフリクトに向き合うスキル」を持てるよう支援することも、人事の役割です。
よくある失敗パターン
失敗パターン1:コンフリクトを「なかったこと」にする
「二人を仲直りさせて、ひとまず収めた」という関わり方は、根本原因が解消されていなければ再発します。表面的な和解は、問題を先送りにするだけです。「なぜコンフリクトが起きたか」という構造的な原因に向き合わなければ、同じパターンが繰り返されます。
失敗パターン2:一方の肩を持つ
コンフリクトに介入する際に、「どちらが正しいか」を裁く姿勢で入ると、人事への信頼が崩れます。特に、組織の中での力関係(上司と部下、ベテランと新人)に引きずられて判断してしまうのは危険です。「フェアな第三者」としての立場を保つことが、人事の信頼の源泉です。
失敗パターン3:コンフリクトを放置する
「本人たちで解決するだろう」「そのうち収まるだろう」という判断で放置すると、関係コンフリクトがどんどん深刻化します。コンフリクトには適切な関与のタイミングがあり、早期介入が重要です。メンタルヘルスリスクが高まっている場合は特に、早めの対処が必要です。
プロの人事はこう考える——コンフリクトマネジメントの設計
知る:コンフリクトの種類と現在の組織の状態を把握する
まず行うべきは、「今組織のどこに、どんなコンフリクトがあるか」を把握することです。
エンゲージメントサーベイの中に「部署間の連携に課題があると感じる」「職場に感情的な対立がある」という設問を入れる、あるいはマネジャーに定期的に「チームで困っていること」を聞く機会を設けることで、コンフリクトの状況が見えてきます。
「ランチを10分で食べながら問題を眺める」という言葉が好きで、人事が現場の日常の中にさりげなく溶け込み、情報を拾う姿勢を持つことも大切です。会議中の空気、廊下での会話のトーン、Slackのやりとりの変化——こういった「組織の呼吸」を感じ取れる人事は、コンフリクトの兆候に早く気づきます。
考える:「タスクコンフリクト」を健全に機能させる設計
健全なコンフリクトを促進するには、「意見が言える環境」と「意見の違いが尊重される文化」が必要です。
会議のルールを見直すことが効果的です。「反対意見は建設的に表現する」「全員が一言は言う」「役職に関わらず意見に同等の重みを置く」といったルールを意識的に設けることで、タスクコンフリクトが建設的に機能しやすくなります。
「悪魔の弁護士」制度(会議で意図的に反対意見を担当する役割を設ける)を取り入れている組織もあります。批判が個人への攻撃でなく「議論の質を高めるための役割」として機能することで、反論しやすい文化が生まれます。
動く:コンフリクトへの介入スキルをマネジャーに持たせる
マネジャー研修の中に「コンフリクトへの介入スキル」を含めることが重要です。
具体的なスキルとして、「感情と事実を分けて話す」「相手の立場から見えていること(ポジション)と、本当のニーズ(インタレスト)を区別する」「解決策を探る前に、まず互いの理解を深める」という3つのステップがあります。
また、人事担当者自身がコンフリクトの当事者と個別に話す時間を設けることも有効です。「それぞれの話を聞いた上で、一緒に話し合う場を設ける」というプロセスが、多くのコンフリクトの解決に効きます。
振り返る:コンフリクトが組織に与えている影響を測定する
コンフリクトが慢性化している組織では、生産性の低下、欠勤の増加、優秀な人材の離職という形で経営数字に影響が出ます。
「コンフリクト解消への取り組みが、離職率の低下・生産性の向上にどう寄与しているか」を経営に報告できると、人事の取り組みの価値が伝わります。「施策の効果は売上伸長・コスト削減・リスク低減で整理する」という考え方で言えば、コンフリクトマネジメントは「コスト削減(生産性損失・採用コストの回避)」と「リスク低減(メンタル不調・離職リスクの低下)」に効きます。
明日からできる3つのこと
1. コンフリクトが起きている部門を一つ特定して、原因の仮説を立てる(今週中に)
「どこに、どんなコンフリクトがあるか」を自分なりに把握する。サーベイデータ・退職面談の内容・マネジャーとの会話から情報を集め、「なぜここでコンフリクトが起きているか」の仮説を立ててみる。
2. マネジャーに「コンフリクトへの向き合い方」について聞いてみる(今月中に)
「最近チームで難しいなと感じていることはありますか」という聞き方で、マネジャーのコンフリクト認識を確認する。マネジャーが「特に何もありません」と答えるなら、コンフリクトが隠れている可能性があります。
3. 次の管理職研修に「コンフリクトへの介入ロールプレイ」を取り入れる(来月から)
実際のコンフリクト場面(匿名化したケース)を使って、どう介入するかをロールプレイで練習する。「知識を学ぶ」よりも「実際にやってみる」方が、スキルの定着が早いです。
まとめ
コンフリクトは、うまく扱えば組織の知恵と創造性の源泉になります。「対立を避けること」ではなく、「対立を健全に扱うこと」が組織の成熟度を高めます。
「群盲象をなでる」という比喩があります。組織の問題を複数の部署から聞くと、全員が違う原因を挙げます。コンフリクトの中にも同じことが起きていて、「どちらが正しいか」ではなく「それぞれが何を見ているか」を理解することが、解決の入り口です。
人事はコンフリクトの審判者ではなく、「組織の全体像を見ようとする人」として関わる。その姿勢が、コンフリクトを組織の成長の機会に変えると思います。
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本記事は、吉田洋介著『「人事のプロ」はこう動く 事業を伸ばす人事が考えていること』の思想に基づいて執筆しています。
吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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