人事部門の組織設計。「オペレーション人事」から「戦略人事」への転換
目次
- なぜ人事部門は"オペレーション"に追われ続けるのか
- 日本の人事部門の現状
- 「オペレーション人事」と「戦略人事」の違い
- 人事部門の3つの機能:CoE・SSC・HRBP
- なぜ「戦略人事への転換」が難しいのか
- 人事部門の組織設計でよくある落とし穴
- パターン①:「採用・労務・研修」で縦割りになり、統合的な人事施策が機能しない
- パターン②:「HRBPを置く」だけで、実態は業務サポートになってしまう
- パターン③:人事部門の「ミッション・役割定義」が曖昧なまま組織設計する
- では、人事のプロはどう考えているのか
- 工夫①:「今の人事部門の仕事」を可視化・整理する
- 工夫②:「事業部と人事の対話」を定期的に設計する
- 工夫③:「人事の専門性」を磨き続ける場を作る
- 工夫④:「人事部門のパフォーマンス」を数字で示す
- 明日からできる3つのこと
- アクション①:今の人事部門の業務を「戦略的・コア・ルーティン」に分類する
- アクション②:1つの事業部長に「人事に期待すること」を1時間聞く
- アクション③:来月の経営会議に向けて「人事部門の成果」を数字で1枚でまとめる
- まとめ
人事部門の組織設計。「オペレーション人事」から「戦略人事」への転換
「人事部門がいつも忙しくて、なかなか戦略的な仕事ができない。こんな状態で本当にいいのかな」
そう感じている人事担当者や人事部長の方は、少なくないと思います。給与計算、社会保険の手続き、採用面接のアレンジ、入社・退社の諸手続き……。日々のオペレーションをこなしているだけで、気づけば月末。「本当はもっと採用戦略を考えたい」「組織の課題を経営と一緒に議論したい」と思いながら、また翌月も同じことを繰り返している。
この状態、実は構造的な問題です。個人の能力や努力の問題ではなく、人事部門の組織設計そのものに課題があることが多い。そして、それは日本の多くの企業で起きていることでもあります。
私はリクルートマネジメントソリューションズで14年間、500社以上の組織人事を支援してきました。その経験から言えることは、「人事部門が経営のパートナーになれるかどうかは、人事部門の組織設計にかかっている」ということです。
今日は、「人事部門の組織設計」をテーマに、なぜオペレーションに追われ続けるのか、どんな落とし穴があるのか、そして人事のプロはどう考えているのか、一緒に考えてみたいと思います。
なぜ人事部門は"オペレーション"に追われ続けるのか
ある人事部長の方が、こんなことをおっしゃっていました。
「うちの人事チームは本当に真面目に仕事しているんです。でも経営会議に出るたびに、社長から『人事はいつも現場の話をしてくれるけど、数字の話がないよね』と言われる。それが悔しくて。でも、正直どこから変えればいいのかわからない」
この方の会社では、人事部門の業務の約70〜80%が労務手続きや採用アレンジなどのオペレーション業務でした。残り20〜30%で採用計画や研修企画をしているのですが、それも現場の要望に応えることが中心で、経営の課題から逆算して設計することはほとんどできていなかった。
これは決してこの会社だけの話ではありません。
日本の人事部門の現状
日本の人事部門は、歴史的に「管理・手続き業務」を中心に機能してきました。人事部門の仕事と言えば、採用、給与・社会保険、労務管理、研修手配――この「4点セット」が基本形です。
これらの業務は確かに重要です。法令遵守の観点からも、従業員の生活基盤を守る観点からも、なくてはならない仕事です。しかし問題は、この「守り」の業務が人事部門のリソースの大半を占めてしまい、「攻め」の仕事、すなわち組織力を高めるための戦略的な人事施策に時間とエネルギーを使えなくなっていることです。
ある調査では、日本の人事部門の業務時間の60〜80%がオペレーション業務に費やされているという結果が出ています。残り20〜40%で戦略的な業務を担わなければならない。これでは、経営から「もっと戦略的な話をしてほしい」と言われても、物理的に難しい部分があります。
「オペレーション人事」と「戦略人事」の違い
「オペレーション人事」と「戦略人事(HRBP的機能)」の違いを整理してみます。
オペレーション人事は、会社の仕組みや制度を正確に運営・管理することを中心とした機能です。給与計算、社会保険手続き、雇用契約管理、就業規則の運用、採用の事務手続き、研修の手配・運営……。これらは会社が健全に動くための「インフラ」を担う仕事です。品質と正確性が求められ、ミスが許されない。非常に重要な仕事です。
一方、**戦略人事(HRBP的機能)**は、事業戦略の実現を人・組織の側面から支援することが中心です。どんな人材が必要か、どう採用・育成するか、組織の文化をどう設計するか、パフォーマンスを高めるためにどう評価・報酬を設計するか……。経営・事業の課題を「人と組織」の観点から解決することが求められます。
この2つの機能は、どちらも人事部門にとって不可欠です。問題は、多くの日本企業の人事部門が、オペレーション人事の機能しか持てていない、あるいはオペレーション人事の比重が大きすぎて戦略人事に踏み込めていない、という現実にあります。
人事部門の3つの機能:CoE・SSC・HRBP
欧米のグローバル企業を中心に広まった人事部門の設計モデルに、「3つの柱」があります。
**CoE(Center of Excellence)**は、人事の専門知識・ポリシーを設計する機能です。評価制度、報酬体系、採用戦略、育成プログラム……これらの「設計図」を描くのがCoEです。人事の専門家集団として、ベストプラクティスを研究し、制度・施策を設計します。
**SSC(Shared Service Center)**は、オペレーション業務を集約・効率化する機能です。給与計算、社会保険、入退社手続きなど、ルーティン業務をまとめて引き受け、コストを下げながら品質を保つ役割を担います。デジタル化・自動化との親和性が高く、RPAやHRテックを活用することで大幅な効率化が可能です。
**HRBP(HR Business Partner)**は、事業部に入り込んで人事の課題を事業課題として解決する機能です。事業部長のパートナーとして、採用・育成・組織開発を一体で支援します。ここが、いわゆる「戦略人事」の核心部分です。
この3つの機能が揃って初めて、人事部門は経営のパートナーとして機能できます。多くの日本企業では、SSCに相当するオペレーション業務を人事部門全体でやりながら、CoEとHRBPの機能も兼ねようとしている。これが「忙しいのに戦略的な仕事ができない」状態の根本原因です。
なぜ「戦略人事への転換」が難しいのか
構造的な理由があります。
**第一に、「今の仕事を止める決断」が難しい。**オペレーション業務は止めることができません。給与計算を来月からやめる、社会保険手続きを減らす、というわけにはいかない。「今の仕事をやりながら、新しい仕事を増やす」という状態が続き、人事部門のリソースは永遠に逼迫します。
**第二に、「人事部門に権限・投資が与えられていない」。**戦略人事への転換には、HRテックへの投資、外部委託、人材採用・育成が必要です。しかし、人事部門の予算・権限は往々にして限られています。「人事は稼がない部門」という認識が根強い企業では、人事への投資が後回しになりがちです。
第三に、そして最も根本的な問題として、「人事と経営の間に信頼関係が築けていない」。
私がこれまで支援してきた企業の実感として、そして多くのデータが示しているように、人事と経営の信頼関係がうまく築けていない状況は30年前から存在します。「7〜8割の企業では、人事と経営の信頼関係がうまく築けていない」という現実があります。
この溝を埋めるには、人事が経営の言語(数字)を学び、経営が人事の価値(組織力)を理解するという双方向の努力が必要です。しかし多くの場合、そのための仕組みがなく、互いに「わかってもらえない」という感覚を抱えたまま時間が過ぎていきます。
人事部門の組織設計でよくある落とし穴
ある人事の勉強会でこんな話をしたことがあります。「組織の問題を複数の部署から聞くと、全員が違う原因を挙げます。採用部門は『採用基準の問題だ』と言う。現場のマネジャーは『マネジメントの問題だ』と言う。人事は『評価制度の問題だ』と言う。みんな正しいんです。でも、一部しか見えていない。象の全体像を見ようとすること、それが人事の役割ではないでしょうか」
この話をすると、多くの人事担当者の方が深くうなずかれます。自分たちが縦割りになって、それぞれの部分最適を追ってしまっている、という自覚があるのだと思います。
では、人事部門の組織設計でよくある落とし穴とは何か。3つのパターンをお伝えします。
パターン①:「採用・労務・研修」で縦割りになり、統合的な人事施策が機能しない
多くの企業の人事部門は、「採用チーム」「労務チーム」「研修・育成チーム」という機能別の縦割り組織になっています。この設計自体は合理的に見えます。専門性が明確で、役割分担もしやすい。
ところが実際に起きることは、各チームが独立して動いてしまい、統合的な人事施策が打てなくなることです。
例えば、入社した社員が半年で辞めてしまうケース。採用チームは「ちゃんと採用要件通りに採った」と言う。研修チームは「オンボーディングプログラムはきちんと実施した」と言う。現場のマネジメント支援は……誰も担当していない。結局、「採用」と「育成」と「定着」が別々の話として処理されてしまい、根本的な改善がされないまま同じ問題が繰り返されます。
人事部門を機能別に分けること自体が悪いのではありません。問題は、その機能間の「つなぎ目」を誰がデザインするか、が曖昧なまま組織設計されてしまうことです。
パターン②:「HRBPを置く」だけで、実態は業務サポートになってしまう
「うちにはHRBPがいる」という会社でも、実態を聞いてみると「事業部から来る相談に対応している」「採用のサポートをしている」「労務問題の窓口になっている」というケースが多い。
これはHRBPではなく、人事の「便利屋」です。
本来のHRBPは、事業部長と対等に「この事業をどう成長させるか」を議論し、そのために「どんな人材が必要で、どう育成・配置するか」を提案できる存在です。経営数字を読み、事業課題を理解した上で、人と組織の視点からソリューションを提供する。そのためには、人事の専門知識だけでなく、事業への理解と経営数字の読解力が必要です。
「HRBPを置けば戦略人事になれる」という発想で組織設計すると、役割定義が曖昧なまま「HRBP」という肩書きだけが先行し、実態はオペレーション担当になってしまう、というパターンが非常に多い。
パターン③:人事部門の「ミッション・役割定義」が曖昧なまま組織設計する
「人事部門として、何を実現するために存在するのか」という問いに、明確に答えられる人事部門は、実はあまり多くありません。
「人材の採用・育成・管理」というのは機能の説明であり、ミッションではありません。ミッションとは「この人事部門が会社の何に貢献するのか」という問いへの答えです。
ミッションが曖昧なまま組織設計すると、部門の優先順位が決まらない。「あれも大事、これも大事」という状態になり、リソースが分散します。経営から「もっとここに注力してほしい」と言われても、「でも、こちらも大事なんです」という会話になり、信頼関係が築けない。
人事部門の組織設計の出発点は、「私たちは何のために存在するのか」というミッション定義です。これがないまま箱(組織図)を先に作っても、機能しません。
では、人事のプロはどう考えているのか
ここからが、この記事の核心です。
人事部門の組織設計を変えるために、「人事のプロ」はどう考え、どう動いているのか。4つの工夫をお伝えします。
工夫①:「今の人事部門の仕事」を可視化・整理する
最初の一歩は、現在の人事部門の仕事を「戦略的」「コア」「ルーティン」の3つに分類することです。
戦略的(Strategic):人事部門が独自に貢献できる、事業成長に直結する仕事。採用戦略の設計、組織文化の形成、HRBPによる事業部支援、人材ポートフォリオの設計……これらは、人事が積極的に時間を使うべき仕事です。
コア(Core):専門知識が必要で、品質を保ちながらこなす必要のある仕事。採用面接・選考、評価運用、研修設計・実施……ここは適切な人員と時間を確保する必要があります。
ルーティン(Routine):正確さが重要だが、必ずしも人事担当者が直接やる必要のない仕事。給与計算、社会保険手続き、入退社事務、研修の手配・受付……ここはデジタル化・自動化・外部委託の候補です。
この分類をホワイトボードやスプレッドシートに書き出すと、「人事部門の時間の何%が、どの区分に使われているか」が可視化されます。多くの企業では、ルーティン業務に50〜70%以上の時間が費やされていることがわかります。
「人事がやらなくていい仕事を特定することが最初の一歩」です。これは、人事担当者を減らすことを意味しません。ルーティン業務をデジタル化・外部委託することで生まれた「余白」を、戦略的・コア業務に振り向けるということです。
HRテックの進化によって、かつて人事担当者が手作業でやっていたことの多くが自動化できるようになっています。給与計算システム、クラウド型の社会保険手続き、電子契約……これらを活用することで、人事担当者が本来注力すべき「人と組織」の仕事に時間を使えるようになります。
あるメーカーの人事部長と一緒に業務棚卸しをしたとき、「社内の手続き書類の半分がまだ紙だった」ということが明らかになりました。そのデジタル化だけで、担当者一人あたり月に約20時間の工数削減が見込めた。その20時間を「採用面接での見極め精度向上」と「入社後フォローアップの充実」に使えたことで、採用後6ヶ月以内の離職率が8%から4%に改善した、という事例があります。
工夫②:「事業部と人事の対話」を定期的に設計する
HRBPの機能を一気に構築しようとすると、たいてい失敗します。「来月からHRBP制度を導入する」と宣言しても、事業部には「何をしてくれるのか」が伝わらないし、人事側にも「事業部で何をすればいいのか」が見えていない。
だから私がお勧めするのは、「小さく試す」ことです。
まず、特定の一事業部(できれば課題意識の高い事業部長がいる部門)に人事担当者が月1〜2回入り込む機会を作ります。正式な「HRBP制度」でなくていい。「人事から皆さんの部門の課題を聞かせてください」という対話の場を設けることから始めます。
その対話の場で重要なのは、「人事として何かをしてあげる」という姿勢ではなく、「事業部の課題を一緒に考える」という姿勢です。「採用がうまくいっていないのは、どんな状況ですか?」「マネジャーが育っていないと感じているのは、どんな場面ですか?」という問いを立てながら、課題の構造を一緒に整理していく。
そして、その対話で出てきた課題を「経営数字と組み合わせて」語れるようにする、というのが次のステップです。
例えば、「この事業部では採用した人材の定着率が業界平均より10%低い。仮に定着率を業界平均並みに改善できれば、採用コスト・研修コストの削減で年間○○百万円の効果がある」という形で、人事の施策を経営数字に翻訳する。
「人材が大事だから、採用・育成に投資すべきだ」という主張だけでは、経営は動きません。「採用・育成に○○万円投資することで、事業収益に○○万円の効果がある」という試算を持って経営と対話することで、初めて「人事が経営を語れる」状態になります。
月1回の「事業部長×人事の1on1」を設けることを、私はよくお勧めしています。1時間の対話でも、定期的に続けることで事業部長の信頼を獲得し、人事が「相談したい存在」になっていく。それがHRBPへの道です。
工夫③:「人事の専門性」を磨き続ける場を作る
人事部門が戦略的な役割を担うためには、人事担当者自身の専門性が問われます。
採用・評価・育成・労務……これらの専門知識は日々アップデートされています。法改正への対応、採用市場の変化、エンゲージメントの新しい知見、組織開発の最新手法……。「昔学んだこと」だけで現場を支援しようとすると、アドバイスが時代遅れになっていることがあります。
人事担当者が自分の専門性を磨き続ける場を、部門として設計することが重要です。外部の勉強会・セミナーへの参加、人事コミュニティへの関与、書籍での学習、外部専門家との対話……こうした「学びへの投資」が、人事の仕事の質を決めます。
「知る」への投資が人事の仕事の質を決める、とよく言います。
ただし、「学ぶための時間が確保できない」という声もよく聞きます。だから、工夫①で述べたルーティン業務の効率化が先に必要なのです。余白なき学びは続きません。
部門として「月○時間は学習に使う」「四半期に一度は外部コミュニティに参加する」という文化・仕組みを作ることが、長期的な人事部門の質を決めます。
人事担当者が社外に出て、他社の人事の方と対話することには、もう一つの価値があります。「自社の課題が実は業界共通の課題だった」と気づいたり、「他社ではこんなアプローチで解決していた」という知見を得たり。外部との交流が、人事部門の視野を広げます。
工夫④:「人事部門のパフォーマンス」を数字で示す
ペルソナBの方、つまり中堅の人事担当者や人事部長の方にとって、「経営から認められない」「人事の仕事の価値がわかってもらえない」という悩みは非常に多いと感じています。
その根本的な原因の一つは、「人事部門の成果を数字で示せていない」ことです。
人事部門が経営に対して定期報告できるKPIを設定することを、強くお勧めします。例えば:
- 採用コスト:一人あたりの採用にかかったコスト(外部費用+内部工数)の推移
- 採用後定着率:採用後3ヶ月・6ヶ月・1年での定着率。特に目標値との乖離
- 離職率・離職コスト:年間の離職率と、それに伴う採用・育成コストの再発生額
- 研修ROI:研修に投資した金額に対して、パフォーマンス向上や定着改善でどの程度の効果があったか
- エンゲージメントスコアの推移:部門別・役職別のエンゲージメント変化と、その後の業績・離職との相関
これらを「人事部門の成果レポート」として、四半期や半期ごとに経営会議で報告する仕組みを作る。最初は精度が低くていい。「人事部門が数字で語る姿勢を見せている」こと自体が、経営との信頼関係構築の第一歩になります。
例として一つ挙げると、採用コストの可視化だけでも、経営の見方が変わります。「今年、エンジニア職の中途採用に総額○○百万円かかっています。うちの採用プロセスを改善することで、採用リードタイムが現在の平均3ヶ月から2ヶ月に短縮できれば、機会損失だけでも年間で○○百万円規模の改善が見込める」という試算を持っていけば、経営は「それ、やってほしい」という話になります。
人事コストを「コスト」としてではなく「投資」として語る。そのためには、投資対効果の試算を持ち込む必要があります。これが、「経営数字からの発想×組織状況からの発想=両利きの人事」の実践です。
人事担当者にとって「経営数字を語る」というのは、最初は難しく感じるかもしれません。でも、始めてみると「これが経営の言語なんだな」と実感できる瞬間があります。その瞬間から、経営との対話が変わります。
明日からできる3つのこと
「でも、具体的に何から始めればいいの?」という声が聞こえてきそうです。
変革を大きく考えすぎると、動けなくなります。まずは小さな一歩から始めましょう。
アクション①:今の人事部門の業務を「戦略的・コア・ルーティン」に分類する
所要時間: 2〜3時間(単独、あるいは人事チームで実施)
必要なもの: ホワイトボードまたはスプレッドシート
最初の一歩: 今月の人事部門の業務を思い出せる範囲で書き出す。次に「戦略的」「コア」「ルーティン」の3列に振り分ける。それぞれの業務に「月何時間かかっているか」を概算で記入する。
これをやると、「うちの人事チームの時間の○%がルーティンに費やされている」という数字が見えてきます。その数字が、変革の必要性を客観的に示してくれます。チームメンバーと一緒にやると、「こんなに手続き業務に時間を使っていたのか」という気づきがメンバー全員に生まれ、変革のモチベーションが高まります。
まず自分自身で棚卸しをしてみて、その後チームミーティングで共有する、という進め方がお勧めです。
アクション②:1つの事業部長に「人事に期待すること」を1時間聞く
所要時間: 1時間の対話(+アポ設定に30分程度)
必要なもの: 事業部長との1on1の場。メモ帳またはテキストエディタ
最初の一歩: 日頃から接点のある事業部長、あるいは課題を抱えていると感じている事業部長に「30分〜1時間、人事へのご意見をお聞かせいただけますか?」とアポを取る。
この対話で聞くべきことは、「人事に何をしてほしいか」だけではありません。「今の組織の課題は何か」「どんな人材が必要か」「マネジャーの悩みは何か」という事業部の実情をまず聞く。その上で「人事としてどう貢献できるか」を考える。
「人事から話を聞きに来てくれた」というだけで、事業部長の人事への評価は変わります。一度対話が生まれると、「あの人事さんに相談してみよう」という信頼関係の種が生まれます。
対話で出てきた課題は、必ずメモして「次のアクション」に落とす。何もアクションが伴わない対話は、一時的な盛り上がりで終わります。
アクション③:来月の経営会議に向けて「人事部門の成果」を数字で1枚でまとめる
所要時間: 2〜4時間(データ収集と資料作成)
必要なもの: 採用データ、離職率データ、研修実績データ。スライドまたは1枚のサマリーシート
最初の一歩: 手元にあるデータから始める。完璧なデータでなくてもいい。「今期の採用実績」「離職率の推移」「研修実施状況」を1枚のシートにまとめ、経営に「数字で人事の活動を報告する」という姿勢を見せることが重要。
最初から精緻な分析は必要ありません。「今期、○名採用。採用にかかったコスト概算○百万円。採用後3ヶ月定着率○%」という簡単な数字でいい。それを経営に見せながら「来期は定着率を○%改善することを目標に、オンボーディングを強化したい」と提案してみる。
この「数字で語る人事」への第一歩が、経営との信頼関係を変えます。
まとめ
人事部門の変革は、一朝一夕にはいきません。
長年オペレーション中心に動いてきた人事部門が、一夜にして戦略人事に変わることはありません。業務の棚卸しから始まり、事業部との対話を積み重ね、数字で語る力を磨き、経営との信頼関係を少しずつ構築していく。それには時間がかかります。
でも、その一歩一歩が確実に、人事部門を「管理部門」から「経営のパートナー」へと変えていきます。
私が大切にしている言葉があります。「すべての組織に人事のプロを」。
人事のプロとは、手続きを完璧にこなす人ではありません。経営数字からの発想と組織状況からの発想を両立させる「両利きの人事」として、事業の成長に貢献できる人です。
人事部門が経営のパートナーになることは、単に人事担当者の満足度を高めるためではありません。それは、組織全体の力を最大化し、事業の成長を支える根幹になるからです。あなたの人事部門が変われば、あなたの会社が変わる。その可能性を、私は心から信じています。
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