
部門間連携の壁を人事が壊す、3つの切り口
目次
- 「サイロ化」が起きる構造的な理由
- 部門最適と全体最適の乖離
- 「連携のコスト」が見えにくい
- 「誰が部門間をつなぐか」という役割が不明確
- よくある失敗パターン
- 失敗パターン1:「交流イベント」で解決しようとする
- 失敗パターン2:「共通のプロジェクト」を作るだけ
- 失敗パターン3:「経営に言えば動く」と思う
- プロの人事はこう考える:部門間連携の改善
- 「連携の障壁」を構造的に診断する
- 「共通の目標」を見える化する
- 「越境者」を育てる
- 「人事が橋渡し役になる」
- 明日からできる3つのこと
- 1. 「連携できていない」と感じる部門間の「障壁の原因」を書き出す(所要時間:1時間)
- 2. 部門横断で「困っていることを話し合う会」を1回開いてみる(所要時間:1〜2時間)
- 3. 「他部門の仕事を理解する機会」を一つ作る(所要時間:設計に1〜2時間、実施に半日)
- まとめ:部門間連携の改善は「組織の力」を高める
- もっと深く学びたい方へ
部門間連携の壁を人事が壊す、3つの切り口
「営業と開発が全然話を聞かない」「人事施策を展開しようとしても部門によって協力度がバラバラ」「社内でサイロ化が進んでいて、横の連携がない」——部門間連携の問題は、多くの組織で起きている課題です。
人事という立場から見ると、この「サイロ化」の問題はとても厄介です。採用・育成・評価・組織開発——これらすべての人事施策は、各部門の協力なしには機能しません。しかも、「部門間の壁」が高い組織では、人事の施策が「また人事のやつが言ってる」と冷めた目で見られてしまいやすい。
ある製造業の人事部長が、こんな経験を話してくれました。「製造部門と品質管理部門の間の壁が厚くて、問題が起きるたびに責任のなすりあいが発生していた。社員旅行や懇親会で仲良くなってもらおうとしたが、業務上の連携は全然変わらなかった。根本を調べたら、製造部門は『生産量』、品質管理部門は『不良率』という、相反する目標指標で評価されていた。この目標設計を変えて、両部門が共有できる『顧客クレーム数』という指標を評価に加えたら、半年後に自然と部門間の会議が増えて、クレームが前年比30%減った」と。
今日は、部門間連携の壁を人事がどう理解し、どうアプローチすればいいかについて一緒に考えてみたいと思います。
「サイロ化」が起きる構造的な理由
部門最適と全体最適の乖離
組織が成長するにつれ、各部門が「自分たちの目標を達成すること」に集中していきます。営業部門は「売上目標の達成」、開発部門は「製品の品質向上とリリース期日の遵守」——それぞれが合理的に動くほど、「全体として何を目指しているのか」という視点が薄れていくことがあります。
「組織の問題を複数の部署から聞くと全員が違う原因を挙げる」という話があります。採用部門は「採用基準の問題」、現場は「マネジメントの問題」、人事は「評価制度の問題」——みんな正しい。でも象の一部しか見えていない。「みんなが自分の部門から見た部分最適の答えを持っている」のが、サイロ化の本質です。
特に注目すべきは「評価指標の問題」です。部門ごとに異なる評価指標を持つとき、「自部門の評価を上げることが他部門の評価を下げる」という相関が生まれることがあります。この構造が続く限り、どれだけ「連携しよう」と声をかけても、行動は変わりません。
「連携のコスト」が見えにくい
部門間で連携するためには、コミュニケーションのコスト(時間・エネルギー)がかかります。忙しい中で「他部門との調整」を行うことは、短期的には「効率を下げるもの」に見えてしまいます。
「連携しなくても自分の部門の目標は達成できる」という状況では、連携する動機が生まれにくい。連携しないことの損失(全体としての機会損失、重複作業、お客様への影響)が「見えにくい」ことが、サイロ化が進む構造的な理由です。
「連携のコスト(短期)」と「非連携のコスト(中長期)」の両方を可視化することが、連携投資の根拠になります。「部門間の連携不足によって発生した手戻り・重複作業・機会損失の試算」を経営に示すことで、「連携改善への投資が必要だ」という認識を引き出せます。
「誰が部門間をつなぐか」という役割が不明確
部門間連携を推進するためには、「部門をまたいで動ける人」が必要です。でも多くの組織では、この役割が明確に定義されていません。
「人事がやればいい」「経営がやればいい」——という認識はあっても、実際に誰がどう動くかが曖昧なまま、問題だけが残り続けることがあります。「橋渡し役」の不在は、サイロ化を構造的に維持します。
よくある失敗パターン
失敗パターン1:「交流イベント」で解決しようとする
部門間連携の問題を「社員旅行」「懇親会」「部門横断のランチ会」といったイベントで解決しようとするパターンです。
人間関係を良くすることは大切ですが、それだけでは「業務上の連携」は改善しません。「あの人とは仲がいい、でも仕事で協力はしにくい」という状態は普通にあります。連携の障壁は「人間関係」だけでなく、「評価基準の相反性」「目標の方向性の違い」「業務プロセスの断絶」にあることが多いです。
イベントで「人間関係の温度が上がっても、評価制度が連携を阻んでいる」という構造が変わらなければ、効果は一時的です。
失敗パターン2:「共通のプロジェクト」を作るだけ
「部門横断のプロジェクトを作れば連携が生まれる」という発想で、無数のプロジェクトが立ち上がるパターンです。
でも、「プロジェクトメンバーになっているが、自分の本来業務が忙しくてプロジェクトに全力で関われない」という状態が続くと、横断プロジェクトは「形だけのもの」になってしまいます。「横断プロジェクトへの貢献が評価される仕組み」がないと、「本来の部門目標を優先するのが合理的」という判断が働きます。
失敗パターン3:「経営に言えば動く」と思う
「部門間連携の問題を経営に報告すれば、経営が何とかしてくれる」と期待するパターンです。
もちろん経営のリーダーシップは重要ですが、「経営が言えば部門間の壁がなくなる」ほど単純ではありません。評価制度の設計、目標管理の仕組み、情報共有の仕掛け——こういった構造的な改善が伴わなければ、経営が「連携せよ」と言っても変わらないことが多いです。「連携できていない原因の構造的な分析と、その改善策の提案」を人事がセットで持って経営に伝えることが、動かすための条件です。
プロの人事はこう考える:部門間連携の改善
「連携の障壁」を構造的に診断する
まず「なぜ連携できていないのか」を正確に診断することが重要です。
障壁が「目標の不一致(A部門の成功がB部門の成功を意味しない評価設計)」にあるなら、評価・目標設計を変える必要がある。障壁が「情報が届いていない(定例会議のない・議事録が共有されない)」なら、情報共有の仕組みを作る必要がある。障壁が「互いの仕事への理解不足(相手が何をしているか知らない)」なら、相互理解の場を作る必要がある。障壁が「意思決定権の不明確さ(誰が最終的に決めるかわからない)」なら、責任・権限の整理が必要。
診断なしに対症療法を繰り返しても、問題は解決しません。各部門へのヒアリング・観察を通じて「障壁の本質的な原因」を特定することが、有効な改善策の前提です。
「共通の目標」を見える化する
部門間連携を改善する最も効果的な方法の一つは、「共通の目標(お客様への価値提供)」を見える化することです。
「私たちは共通のお客様のために存在している」という前提を、具体的な事例や数字で共有する。「営業が取ってきた案件を開発が期日通りに届けた結果、お客様から〇〇の評価をもらった」「製造と品質管理が協力した製品ラインのクレームが〇%減少した」という成功事例を共有することで、「連携することがお客様にとって価値になる」という実感が生まれます。
評価制度に「部門共通指標(顧客満足度・全社プロジェクト完遂率)」を加えることは、「共通の目標を持つ動機付け」として機能します。
「越境者」を育てる
部門間連携を改善する上で重要な存在が、「越境者」と呼ばれる「複数の部門を理解し、橋渡しができる人」です。
人事の仕事の一つは、「越境者」を意図的に育てることです。ジョブローテーションで複数の部門を経験させる、部門横断プロジェクトに積極的に参加する機会を作る、「他部門の仕事を理解することが評価される」という文化を作る——こういった取り組みが、長期的に部門間連携を改善します。
越境者が増えると、「あの部門のことはAさんに聞けばわかる」というコネクターが組織内に増えていきます。コネクターの存在が、「誰に相談すればいいかわかる」という情報流通を活性化します。
「人事が橋渡し役になる」
人事は、組織全体を俯瞰できる立場にあります。採用・評価・育成の場面で全部門と関わるため、「各部門が何を課題と感じているか」「どこで連携不足が起きているか」を把握しやすい。
人事が積極的に「橋渡し役」を担うことで、「A部門はこういう課題を感じていると聞きました。B部門にはどう見えていますか?」という対話を促すことができます。人事が「全体を見る目」を持って各部門に関わることで、「組織全体として何が起きているか」を経営に伝える「情報の翻訳者」として機能できます。
明日からできる3つのこと
1. 「連携できていない」と感じる部門間の「障壁の原因」を書き出す(所要時間:1時間)
今、連携がうまくいっていないと感じる部門間の組み合わせを一つ選んで、「なぜ連携できていないか」を書き出してみましょう。「目標の不一致」「情報共有の仕組みがない」「互いの仕事への理解不足」「リソース不足」「意思決定権の不明確さ」——原因を分類することで、「交流イベントで解決できる問題か、評価設計を変えるべき問題か」が見えてきます。
この分析を「連携できていない部門の担当者」とも共有することで、「自分たちの問題の原因を一緒に考える」という協働が始まります。
2. 部門横断で「困っていることを話し合う会」を1回開いてみる(所要時間:1〜2時間)
「一緒に仕事をしている2〜3部門の担当者を集めて、60分話し合う」——これだけでいいです。「今、お互いの仕事で困っていることはありますか?」「相手部門に対して改善してほしいことはありますか?」を安全に話せる場を作ることが、連携改善の第一歩になることがあります。
ファシリテーターとして人事が入ることで、「言い合いにならずに本音が出る場」が作りやすくなります。最初から「解決策を出す場」にするのではなく、「互いの状況を知る場」として設計することで、心理的ハードルが下がります。
3. 「他部門の仕事を理解する機会」を一つ作る(所要時間:設計に1〜2時間、実施に半日)
「部門間見学デー(他の部門の仕事を半日体験する)」「部門紹介のランチセッション(月1回、各部門が仕事内容を15分で紹介する)」「部門間ジョブシャドウイング(他部門の担当者の仕事を1日観察する)」——シンプルな「相互理解の機会」を作ることが、連携の基盤づくりになります。
「相手の仕事が大変だとわかった」という体験が、「もう少し丁寧に情報を渡そう」「もう少し早めに確認しよう」という自発的な行動変容を生むことがあります。
まとめ:部門間連携の改善は「組織の力」を高める
部門間連携の改善は、個別の部門最適を超えて「全体としての組織の力を高める」取り組みです。これは事業成長に直結します。
「経営数字からの発想×組織状況からの発想=両利きの人事」という考え方があります。部門間連携の改善も、「組織の横連携が高まることで、プロジェクトの完遂スピードが上がり、売上や顧客満足度に貢献する」という経営的な根拠を持ちながら推進することが大切です。
一夜にして連携が良くなることはありません。でも「評価設計の見直し」「情報共有の仕組み化」「越境者の育成」という構造的な取り組みを地道に続けることで、組織はより協調的で生産的になっていきます。「部門間の壁」という問題の本質を捉えた上で、人事が主体的に改善を動かしていきましょう。
もっと深く学びたい方へ
組織開発と部門間連携の改善を体系的に学びたい方には、「人事のプロ実践講座」がお役に立てるかもしれません。
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吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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