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離職の「本当の理由」を把握する。「一身上の都合」で終わらせない退職分析の考え方

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離職の「本当の理由」を把握する。「一身上の都合」で終わらせない退職分析の考え方


「退職面談をやっても『一身上の都合』ばかりで、本当の理由が全然わからない。これじゃ改善のしようがないし、どうすればいいんだろう」

そんな心の声、ありませんか。

退職面談を丁寧にセッティングして、1時間かけて向き合っても、最後に残るのは「お世話になりました」という言葉だけ。面談シートには「一身上の都合」と「次のステップへの挑戦」という文字。どこかよそよそしくて、実感のない言葉が並ぶだけ。

「本音はどこにあるんだろう」と感じながらも、次の採用や業務が待っているから、それ以上深掘りする時間もない。そのまま記録として残して、次の退職が起きたとき、また同じことを繰り返す。——多くの人事担当者が、このサイクルに入り込んでいます。

一人人事や若手人事の立場だと、とくにしんどい。「ちゃんと聞き出せなかった自分の問題なのかな」と責めてしまうこともあるかもしれません。でも、それは違います。退職面談で本音が出てこないのは、あなたのヒアリング力の問題ではなく、「退職面談という場の構造的な限界」があるからです。

もう一つ、正直に言うと、退職面談で本音が出てこないのは、多くの場合「辞める人がそもそも本音を言う理由を持っていない」という現実があります。残念ながら、退職面談という設計自体が、本音収集には向いていないのです。

今日は、その構造をきちんと理解した上で、「離職の本当の理由」をどうやって把握するか、一緒に考えてみたいと思います。離職率を下げることを目標にするのではなく、「なぜ人が離れるのか、なぜ人が残るのか」を理解することを起点にした、実践的な考え方についてお伝えします。


なぜ退職面談では本音が出てこないのか

ある企業の人事の方が、こんな悩みを打ち明けてくださいました。

「うちでは必ず退職面談を実施しているんです。マネージャーとではなく、人事が中立的な立場で面談する形にしているし、できる限り丁寧に時間をとっています。でも、実際に聞けるのは当たり障りのないことばかりで。『ご縁があって次の環境へ』とか『家庭の事情で』とか。ほんとうのことを聞けた試しがない。これじゃ何が問題なのか全然わからなくて、対策の打ちようがないんですよね」

この悩みは、決して珍しくありません。むしろ、退職面談を真剣にやればやるほど、この「空振り感」を強く感じる方が多い印象です。なぜ、こんなことが起きるのか。三つの構造的な理由があります。

理由①:去りゆく関係への配慮

辞める側の立場で考えてみてください。残された人たちとの関係は、この面談が終わったら終わりではありません。退職後も同業界にいれば再会することもある。SNSでつながっていることもある。前職の会社や人をネガティブに語ることは、自分にとってリスクになりえます。

「上司の○○さんが本当に合わなくて」「評価制度が不公平だと感じていた」「チームの雰囲気が悪くて」——そんな本音を言ったとして、何が変わるでしょうか。本人にとっては「何も変わらないし、言ってもいいことがない」という合理的な判断が働くのです。

だから「一身上の都合」という言葉が選ばれる。これは嘘をついているわけではなく、「これ以上言う必要がない」という判断です。それを責めることはできません。

理由②:在職中のリスク感覚

退職面談の多くは、最終出社日の数日前、あるいは最終出社日当日に行われます。内定先は決まっていて、後は去るだけ。でも、まだ在職中です。有給消化の期間が残っていることもある。退職金や各種手続きの精算も残っている。その状態で、会社の問題点を正直に語ることへの心理的ハードルは相当に高い。

「最後まで感じよく終わりたい」という気持ちも、当然あります。余計なことを言って波風を立てたくない。だから「お世話になりました」「次のステップに挑戦したいと思って」という、誰も傷つけない言葉が選ばれる。

理由③:「もう変わらない」という諦め

これが最も本質的な理由かもしれません。

辞める決断をした人は、多くの場合、辞める前にすでに「声を上げることをやめていた」という段階を経ています。かつては上司に相談したり、評価に不満を持ちながらも踏みとどまったりしていたはずです。でも、何度か声を上げても変わらなかった経験が積み重なって、ある時点で「ここは変わらない」という結論を出している。

その人が退職面談の場で、改めて問題提起をする動機はどこにもありません。「どうせ聞いてももう関係ない」「言ったところで変わらないとわかっている」——そういう諦めの上に、「一身上の都合」という言葉が乗っかってくる。

これが「本音が聞けない」最大の理由です。退職面談のタイミングでは、すでに本人の中でその会社への投資は終わっているのです。


「辞めてから3ヶ月後には話してくれる」

これは、人事のプロの間でよく語られる経験則です。退職面談では出てこなかった本音が、退職後の時間的・心理的な距離を置いたあとに、初めて語られることがある。

実際に、退職した社員に数ヶ月後にコンタクトを取り、フォローアップインタビューを続けている人事担当者がいます。「辞めていった人にまで聞きに行くなんて」と最初は周囲に驚かれることもあるそうですが、その手間を惜しまない人事ほど、組織の本当の課題をつかんでいます。

なぜ時間が経つと話してくれるのか。在職中のリスクが消えているから、関係が落ち着いているから、そして「聞いてもらえる」という安心感が生まれるから。人は、利害関係が薄れたあとに初めて、正直な言葉を出せる場合が多いのです。

この「時間と距離のある対話」こそが、退職面談の構造的な限界を超えるための、最も直接的なアプローチです。


「プッシュ型」と「プル型」——離職の二つの力学

離職の原因を理解するうえで、非常に役立つ整理があります。「プッシュ型離職要因」と「プル型離職要因」の違いです。

プッシュ型離職要因とは、現職が「押し出す力」を持つネガティブな要因です。上司との関係性、評価への不満、業務量の過重、職場の雰囲気、給与への不満——これらは「ここにいたくない」という感情を生む要因です。

プル型離職要因とは、他社や他の選択肢が「引っ張る力」を持つポジティブな要因です。「より高いポジションへの挑戦」「成長できる環境を見つけた」「やりたい仕事が他にある」——これらは「あそこに行きたい」という感情から来ています。

退職面談で出てくる言葉は、ほぼ例外なくプル型の理由です。「次のステップへ」「新しい挑戦をしたい」——これらはネガティブな要素を語らずに済む、当たり障りのない表現として機能します。

しかし、離職の多くはプッシュ型要因とプル型要因の組み合わせで起きています。プッシュ型の不満が積み重なったところに、プル型の機会が現れたとき、人は動く。片方だけではなかなか動かない人も、両方が重なったときに踏み出す決断をします。

だとすると、退職面談で「次の挑戦に向けて」という言葉だけを記録しても、プッシュ型の要因——つまり組織が本来解決すべき問題——が見えてこない。表面上の理由だけを集めても、何も変えることはできないのです。


離職率を「経営数字」として捉える

ここで少し視点を変えてみましょう。離職分析を「個人の感情の問題」として捉えるのか、「経営数字として捉える」のかで、その後の行動がまったく変わってきます。

中途採用にかかるコストは、ポジションや業種によりますが、採用から戦力化までのトータルコストは相当な規模になります。求人広告費・エージェント手数料・社内の採用工数・入社後の研修コスト・立ち上がり期間中の生産性ロス——これらを合算すると、一人の離職が経営に与えるインパクトは軽く見積もっても数百万円規模になることが多い。

さらに、優秀な人が辞めた場合、その人が持っていた顧客関係・ノウハウ・チームへの影響は、数字にしにくいが確実に大きい。

また、離職が続く組織は、残った社員への負担が増えます。業務が増える、教育コストがかかる、モチベーションが下がる——これらが生産性に影響する。離職率が高い組織ほど、採用・教育に追われてコア業務に集中できなくなるという悪循環が生まれやすい。

離職分析を「経営数字として語れる人事」は、経営者との対話の質が変わります。「今期の離職によるコストインパクトを試算すると、採用費と生産性ロスを合わせて○○万円規模です。その背景に、特定のチームで起きている課題がある可能性があります」という話ができる人事と、「最近また人が辞めてしまって...」という話しかできない人事では、経営からの信頼が大きく異なります。

離職分析は、「人への配慮」の問題であると同時に、「経営数字の問題」でもある。その両方の視点を持つことが、人事としての存在感につながります。


「なぜ辞めるか」より「なぜ残るか」を同時に理解する

もう一つ、重要な視点があります。離職分析と定着分析は、セットで考えるべきだということです。

「なぜ人が辞めるか」だけを分析していても、組織の改善につながりにくいことがあります。なぜなら、辞めた人の声だけを集めても、それが「自社の特殊な問題なのか」「どの組織でも起きうる普遍的な問題なのか」が見えてこないからです。

一方、「なぜ人が残るか」を同時に分析することで、自社の強みや、定着に貢献している要因が見えてきます。長く活躍している人が「なぜここにいるのか」「ここの何が好きなのか」を丁寧に聞き取ることで、離職対策の方向性が定まってくる。

「辞めていく人の声」と「残っている人の声」の両方を持って初めて、組織の全体像が見えてくる。その構造を理解した上で初めて、「何を改善すれば定着率が上がるか」という設計ができるようになります。


離職対策の"あるある"の落とし穴

実際の現場でよく見られる、離職対策の失敗パターンをいくつか見ておきましょう。どれも「意図は良いのに、なぜか効果が出ない」というものばかりです。


あるとき、こんなことがありました。ある会社の人事担当者が、人事の勉強会で「1on1を導入したら離職率が改善した」という他社の事例を聞きました。「これだ」と思って早速自社でも導入することになった。ところが、導入してみたものの、半年後も離職率に変化がない。マネージャーからは「何を話せばいいかわからない」という声が上がる。現場からは「また別の仕事が増えた」という反応。結果として、形だけの1on1が月に1回30分行われるようになったものの、効果は感じられない——という状況になった。

何が問題だったのか。それは「診断なしに処方箋を書いてしまった」ことです。1on1がうまく機能している他社と自社では、文化も、マネージャーの状況も、離職の根本原因も違う。それを確認しないまま、「いい方法だから入れれば解決する」という発想で動いてしまった。

この話は1on1に限りません。エンゲージメントサーベイ、評価制度の改定、福利厚生の充実——これらはすべて「手段」です。自社の問題が何であるかを把握した上で初めて、どの手段が有効かが判断できる。手段ありきで動いても、効果は出ないか、むしろ現場の混乱を招くことすらあります。


パターン①:「給与を上げれば解決する」という思い込み

離職対策を考えるとき、最初に「給与が低いから辞めているのでは」という仮説が出てくることがあります。確かに、給与水準は定着に影響する要因の一つです。でも、給与だけが離職原因であれば、業界水準並みの給与を払っている企業では離職が起きないはずですよね。実際はそうではない。

給与に不満を持っている人でも、「職場の人間関係が良くて成長できているから残っている」というケースは多い。逆に、給与を上げても「仕事にやりがいがない」「上司との関係が改善されない」という場合には、給与改善の効果は長続きしません。

給与は「離職のきっかけ」になることはあっても、それだけが「本当の理由」であることは少ない。表面的な数字に対応するだけでは、本質的な解決には至らないことがほとんどです。


パターン②:退職面談だけに頼って情報収集する

先ほど詳しく述べた通り、退職面談には構造的な限界があります。それでもなお、多くの企業が「退職面談の記録」だけを離職分析のデータとして使っています。

「当社の退職理由の1位は"一身上の都合"で、2位は"次のステップへの挑戦"です」——これは「データが存在する」というだけで、実質的には何も分析していない状態です。

退職面談は「最後の挨拶の場」として機能することが多く、本音収集の場としては最も機能しにくい設計になっています。それをわかった上で、退職面談以外のチャネルを組み合わせることが必要です。


パターン③:離職した後で慌てて対策する

「また辞めた」「今月2人目だ」「何か対策しなければ」——こういうリアクション型の動きになってしまうと、常に後手に回ります。

離職には必ず予兆があります。それが見えていないだけで、本人の中では「辞める気持ち」が芽生えてから実際に辞めるまでに、数ヶ月から1年以上かかっていることが多い。その間に、サインはいくつも出ています。

発言が減った、アウトプットの質が変わった、チームへの関与が薄くなった、有給取得が急に増えた——これらは必ずしも「転職活動中」を意味するわけではありませんが、何らかの変化のサインです。それを、仕組みとして拾える状態を作れているかどうかが、予防的な離職対策の分かれ目になります。


では、人事のプロはどう考えているのか

ここからが、今日の記事の核心です。退職面談だけに頼らず、「離職の本当の理由」を把握するために、実際にどんな工夫ができるのかを一緒に考えていきます。


工夫①:「退職後3ヶ月の追跡インタビュー」を設計する

最も直接的なアプローチから始めましょう。退職から一定の時間が経った後に、改めて本人にコンタクトを取り、率直に話を聞く機会を作る方法です。

なぜ3ヶ月後なのか

退職直後は、次の会社での新しい環境に慣れることで頭がいっぱいで、前職のことを冷静に語る余裕がないことが多い。一方で、あまり時間が経ちすぎると、記憶が薄れたり、そもそも話を聞いてもらえることへの意外感が薄れたりします。3ヶ月という期間は、心理的に落ち着いて、前職を客観的に振り返れるようになってきたタイミングとして、ちょうど良いことが多い。

アプローチの方法

連絡手段は、メールや個人のSNSなどで構いません。重要なのは「押しつけない」こと。「ご都合がよければ、30分ほどお話を聞かせていただけますか」というトーンで、「お断りいただいても全く構いません」という一文も添える。断りやすい空気を作ることが、かえって応じてもらいやすくなります。

オンラインでも電話でも、本人が話しやすい方法で。録音は原則しない(するなら必ず事前に了解を取る)。「組織改善のための参考にしたい」という目的を正直に伝えることが、信頼につながります。

また、退職時に「もしよければ数ヶ月後に少しお話を聞かせてください」とあらかじめ伝えておくことで、後の連絡がより自然になります。退職面談の最後に一言添えるだけで、このハードルはずいぶん下がります。

質問の設計

退職後インタビューで聞く質問は、「退職面談で聞いたこと」の繰り返しにしないことが大切です。

まず、「辞める一番の理由は何でしたか?」と聞いてみる。最初はまだ表面的な言葉が出てくることもありますが、そこから「辞める気持ちになったのは、いつ頃からでしたか?」と掘り下げます。ここで初めて、具体的なエピソードや感情が出てきやすくなります。

「その気持ちを感じたとき、誰かに相談しましたか?」「もしこういう変化があったら、残っていましたか?」——こうした問いかけによって、組織が本当に変えるべきだった点が見えてきます。

この情報を丁寧に積み上げていくことで、退職面談では絶対に見えなかった「構造的な課題」が浮かび上がってくる。「特定のマネージャーの下で離職が続いている」「評価フィードバックのタイミングへの不満が多い」「3〜5年目の社員が感じる成長機会の不足」——こうしたパターンが見えたとき、初めて打ち手が描けるようになります。


工夫②:「在職者サーベイ」で予兆を掴む

退職後インタビューは「事後の情報収集」です。それと並行して、在職者に対してサーベイを使った「予兆の把握」をすることが、予防的な離職対策につながります。

エンゲージメントサーベイや従業員満足度調査は、定期的に実施している企業も増えてきましたが、「やりっぱなし」「フィードバックなし」という状態になっていることも少なくない。サーベイは収集すること自体が目的ではなく、その変化をどう読むかが重要です。

「辞めたいと思ったことがある」という設問の解釈

エンゲージメントサーベイの中に、「この1ヶ月で、転職を考えたことがある」や「辞めたいと感じたことがあった」という設問を置いているケースがあります。

この設問に「はい」と答えた人がいても、それがすぐに退職につながるわけではありません。誰でも、ちょっとした疲れや不満で「辞めようかな」と一瞬思うことはある。問題は、その思いが継続していたり、回答割合が前回より増えていたりする場合です。

同じ設問を継続的に実施して、「前期より5ポイント上がっている」「チームAだけ高い割合を示している」という変化に気づけるかどうか。そのためには、単発でサーベイをやるのではなく、定期的・継続的に測定することが前提になります。

部署別・職種別・年次別で分析する

全社平均だけを見ていては、潜在的な問題が見えにくい。部署別、職種別、入社年次別にクロス集計することで、「特定のチームだけ離職リスクが高い」「3年目前後で一気に満足度が下がる」といったパターンが見えてきます。

このパターンが見えたとき、初めて「この部署のマネージャーに個別に話を聞く」「3年目向けのキャリア面談を仕組みにする」という具体的な手が打てます。データを集めることより、データを使った行動につなげることが、サーベイの本質的な価値です。

また、サーベイ結果を組織にフィードバックすることも重要です。「聞きっぱなし」では、社員は「また意味のないアンケートをやらされた」と感じます。「あなたたちの声をこう受け止めて、こういう対応を考えています」というコミュニケーションが、サーベイへの信頼と次回以降の回答率を高めます。


工夫③:「ハイパフォーマーが辞めた理由」を特別分析する

すべての離職を同じ優先度で分析するのではなく、「ハイパフォーマーの離職」は特別に深掘りする——この判断ができるかどうかが、人事の質を大きく変えます。

なぜなら、ハイパフォーマーの離職は組織に与える影響が特に大きいからです。業務上の損失だけでなく、チームの士気への影響、後に続く離職への連鎖効果——これらが、一般的な離職とは比べものにならないくらい大きい。

また、ハイパフォーマーが辞めるときには、「これ以上ここでは成長できない」「やりたいことができる環境を見つけた」というケースが多く、これは組織の構造的な課題を直接的に示しています。

「次の会社に何を求めたか」を聞く

ハイパフォーマーへの退職後インタビューで特に有効な質問は、「次の会社(あるいは選択肢)に何を求めましたか?」というものです。

「より大きな裁量がほしかった」「給与水準よりも成長機会を重視した」「特定の分野での専門性を深めたかった」——こうした言葉の中に、自社が提供できていなかったものが映し出されます。

その答えを真剣に受け止めて「うちで提供できていたか?」と問い直すことが、組織の成長機会の設計や、ポジション設計の見直しにつながります。

ハイパフォーマーの退職は、「なぜその人が離れたのか」を深く理解するチャンスでもあります。一人の声に向き合うことで、組織全体の設計を問い直す契機にすることができます。


工夫④:「定着要因の分析」も同時に行う

ここまで「辞めた人の話を聞く」という方向で話してきましたが、もう一つ大切な分析があります。「なぜ長く残っているのか」を、在職者に直接聞くことです。

長く活躍している社員——特に3年・5年・10年といった節目を超えた人たち——が「なぜここにいるのか」「ここのどんなところが自分に合っているのか」を丁寧に聞き取ることで、自社の「見えていなかった強み」が明らかになることがあります。

「なぜ他の転職タイミングで辞めなかったんですか?」と聞いてみると、面白い答えが返ってくることがある。「あのとき声をかけてもらったから」「マネージャーが変わって雰囲気が良くなったから」「あのプロジェクトを任せてもらえたから」——これらは、組織が偶発的にうまくやっていた定着要因です。

偶発的にうまくいっていたことを、意図的・再現的な仕組みにできないか。そう考えると、定着要因の分析は単なる現状確認ではなく、改善設計の起点になります。

「やめない理由」「ここが好きな理由」を言語化してもらうことで、採用時のメッセージの設計にもつながります。「この会社のどんなところが合う人が、長く活躍しているのか」が見えれば、採用段階でのミスマッチを減らすことにも応用できます。

定着分析は、離職対策と車の両輪です。「辞める人に学ぶ」と「残る人に学ぶ」を同時に行うことで、組織の実態が立体的に見えてきます。


「知る」の質が、人事の質を決める

ここまで四つの工夫を紹介してきましたが、共通しているのは「知る」ことへの姿勢です。

退職面談で満足せず、退職後インタビューで改めて聞きに行く。サーベイを定期的に取り続けて変化に気づく。ハイパフォーマーの言葉を特別に分析する。定着者の声も同時に収集する——これらはすべて、「もっとよく知ろう」という行動です。

人事の仕事は、最終的に「知った上で、何をするか」に帰着します。でも、その前段階として「どれだけ正確に、深く知れているか」が問われます。情報の質が浅ければ、対策の精度も上がらない。

手段を先に決めて動くのではなく、まず「知る」ことに徹する。知った上で、どの手段が自社の問題に合うかを考える。この順番を守れるかどうかが、人事としての質を分けます。

「知る」ことへの投資を惜しまない人事が、組織の本当の課題をつかんで、経営に意味のある提言ができるようになっていきます。


明日からできる3つのこと

「やってみよう」と思っても、最初の一歩が難しく感じることがありますよね。ここでは、具体的に明日から動ける三つのアクションを紹介します。


アクション①:直近の退職者に「退職後インタビュー」の依頼メールを1本送る

所要時間:30分(メール作成・送信まで) 必要なもの:退職者のメールアドレスまたは連絡先 最初の一歩:対象者を1人選んで、メールの文面を書く

直近3〜6ヶ月以内に退職した方で、在職中に比較的良好な関係性があった人を一人選んでみてください。

メールの文面はシンプルで構いません。

「〇〇さん、お世話になっております。退職後もお元気でしょうか。実は、組織改善のための参考にさせていただきたく、もしよろしければ30分ほどお話を聞かせていただけないかと思いご連絡しました。ご都合のよいタイミングで、オンラインや電話でも構いません。お断りいただいても全く構いませんので、もしよろしければご連絡いただけますと幸いです」

このメールを1本送ることが、すべての起点です。断られても、それはそれで構いません。まず動いてみることが大切です。

今後の退職者に対しては、退職面談の最後に「もしよければ数ヶ月後にまたお話を聞かせてください」と一言添えておく習慣を作ると、後の連絡がしやすくなります。


アクション②:在職者から「会社の良い点・変えてほしい点」を3人に15分ずつ聞く

所要時間:1時間(3人×15分)+事前準備15分 必要なもの:ちょっとした雑談ができる場(ランチ・オンライン1on1など) 最初の一歩:声をかける3人を決める

フォーマルなサーベイや面談でなくて構いません。日常のちょっとした会話の中で、「最近どう?仕事で困ってることとか、こうなったらいいなって思うことって何かある?」と聞いてみる。

3人を選ぶ基準のヒント:

  • 入社2〜4年目の社員(離職リスクが比較的高い層)
  • 最近少し元気がないと感じる人
  • 長く活躍しているベテラン社員(定着要因を聞くため)

この3パターンから1人ずつ選ぶと、異なる視点のデータが集まります。

3人から聞いた言葉を、メモとして記録してみてください。それが、後の分析の種になります。「なんとなくそんな気がしていた」という感覚が、言語化されたデータに変わったとき、初めて動くことができます。


アクション③:自社の過去3年の離職率を「部署別・年次別」で集計して傾向を見る

所要時間:1〜2時間 必要なもの:過去3年分の入退社データ(人事システムまたはExcel) 最初の一歩:在籍者データと退職者データを並べて表を作る

全社の離職率だけでなく、部署別・入社年次別に分解することが重要です。

たとえば——

| 部署 | 2023年離職率 | 2024年離職率 | 2025年離職率 | |------|------------|------------|------------| | 営業部 | 8% | 12% | 18% | | 開発部 | 5% | 5% | 6% | | CS部 | 10% | 11% | 9% |

このような表を作ってみると、「営業部の離職率が年々上がっている」という傾向が一目でわかります。これがあれば、「営業部に何が起きているのか」を次の調査テーマとして絞り込むことができる。

また、「入社3年目での離職が多い」といったパターンが見えれば、「3年目前後に何らかの節目感・閉塞感が生まれているのでは」という仮説が立てられます。仮説があれば、インタビューの設計も精度が上がります。

データがないところから始めることはできません。まず「手元にあるデータで何が見えるか」から始めることが、分析の第一歩です。この表を一枚作るだけで、「感覚」だったものが「見える化」されます。


まとめ:「定着を増やす」ことが、本当のゴール

今日、お伝えしてきたことをまとめると——

退職面談で本音が出てこないのは、構造的な理由があります。在職中のリスク感覚、関係への配慮、そして「もう変わらない」という諦め。これらは、あなたのヒアリング力の問題ではありません。

だから、退職後インタビュー・在職者サーベイ・ハイパフォーマー分析・定着要因の分析という複数のチャネルを組み合わせて、「本当の理由」に近づいていく必要があります。

一つ、大切なことをお伝えして終わりにします。

「離職率を0にすること」は、現実的でも、正しいゴールでもありません。人が動くことは、自然なことです。大切なのは、「定着を増やすこと」「本当に残ってほしい人に残ってもらえる環境をつくること」です。

そのためには、「なぜ人が辞めるか」と「なぜ人が残るか」の両方を、継続的に理解し続ける姿勢が必要です。

人事の仕事の質の多くは、「知る」の質で決まります。どれだけ深く、正確に、組織の実態を知れているか——それが、打ち手の質につながり、経営への貢献につながっていきます。

「知る」ことに投資できる人事が、組織を動かせる人事になっていきます。

離職分析は、組織改善の起点です。「一身上の都合」で終わらせないところから、すべてが始まります。

あなたの組織が、少しずつでも「定着が増える環境」に近づいていくことを、心から応援しています。


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