
「職場にいても孤独」——その問題に人事はどう向き合うか
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「職場にいても孤独」——その問題に人事はどう向き合うか
「会社には行っているけど、本当に誰とも話せていない気がして」
退職面談でこんな本音が出てくることがあります。でもそれは「今気づいた」ことではなく、「もっと前から感じていたこと」であることが多い。孤独感は、退職の引き金になる前に、ずっとくすぶっていたのです。
職場の孤独という問題は、リモートワークの普及以降に急速に注目されるようになりましたが、実は以前からある課題です。大きなオフィスにいても、チームの一員であっても、「自分は本当にここに必要とされているか」という孤独感を抱えている人は少なくありません。この問題に人事としてどう向き合うかについて、考えてみたいと思います。
なぜ職場の孤独は見えにくいのか
「孤独です」とは言えない職場の空気
職場で「孤独を感じている」と打ち明けることは、心理的に難しいことです。「そんなことで弱音を吐いて」「それは仕事への意欲がないということか」という評価を恐れて、黙って抱え込む人が多い。
外から見ると「普通に仕事している」「会議でも発言している」ように見えても、その人が帰り道に「今日も誰とも本当の話ができなかった」と感じている——こういうケースは想像以上に多いと思います。
エンゲージメントサーベイの「職場の関係性」スコアが平均的でも、個別の孤独感は見えません。集計値は平均であり、孤独を感じている少数の人の声を消してしまうことがあります。
リモートワークが「孤独の構造化」をもたらした
以前は、職場に来るだけで自然に「雑談」「廊下でのすれ違い」「ランチの声かけ」という非公式なコミュニケーションが生まれていました。リモートワークの普及により、これらが意図的に作らないと発生しない状況になった。
オンライン会議は「仕事の話」だけで終わることが多く、「なんとなくいる感」が生まれにくい。「会議が終わったら接続を切る」という物理的な断絶が、心理的な断絶にもつながっています。
「孤独への対処」は個人の問題とされがち
「孤独を感じているなら自分から話しかければいい」「友達を作るのは自分の責任」という発想で、孤独への対処が個人の努力に委ねられていることがあります。
しかし、孤独感は組織設計・文化・コミュニケーション構造の問題です。「孤独になりやすい環境」を組織が作っておきながら、「解決は個人で」というのは無責任だと思います。
よくある失敗パターン
失敗パターン1:「チームビルディングイベント」で解決しようとする
年に1〜2回の懇親会やチームビルディングイベントで「絆を深めた」気になるが、日常のコミュニケーション構造が変わらなければ、孤独感は戻ります。イベントは「きっかけ」にはなりますが、「構造の解決策」にはなりません。
失敗パターン2:サーベイで「問題なし」と判断する
エンゲージメントサーベイで「職場の関係性」スコアが一定以上なら問題ないという判断をしてしまうパターンです。スコアが平均的でも、孤独を感じている個人がいることは見えません。定量データだけでなく、定性的な声を拾う仕組みが必要です。
失敗パターン3:孤独な人を「メンタルヘルスの問題」として個別対応する
孤独を感じている社員が相談に来たとき、個別のカウンセリングや産業医面談につなぐことで「対応した」と思ってしまうパターンです。個別対応は大切ですが、「なぜ孤独が生まれるか」という組織的な問いには向き合えていません。
プロの人事はこう考える——職場の孤独への人事的アプローチ
知る:孤独が生まれている構造を把握する
まず問うべきは「なぜ孤独が生まれているか」という構造的な原因です。
リモートワークで非公式コミュニケーションが減った? 組織が大きくなってお互いを知らない社員が増えた? 成果主義で「個人で黙々と仕事をする」文化になっている? 上下関係が強く、横のつながりが薄い?
この原因を把握せずに施策を打っても、的外れになります。サーベイの設問に「職場に本音で話せる相手がいる」「自分が組織に必要とされていると感じる」を追加し、スコアの低い部門やグループを特定することから始めてみてください。
考える:「つながりの構造」を設計する
孤独を防ぐために人事ができることは、「つながりが自然に生まれる構造を設計すること」です。
部門横断的なつながりの設計:同じ職種・同じテーマに関心を持つ社員が交流できる「コミュニティ」の設計。社内勉強会、プロジェクトチーム、有志グループ——部門を超えたつながりは、孤独感の予防に効きます。
非公式コミュニケーションの意図的設計:リモート環境では「雑談の場」を意図的に作る必要があります。週1回15分の「ランダムペアでの雑談」(ランダムでペアを組んで軽い会話をする制度)を導入した企業では、社員の孤独感スコアが改善したという事例があります。
定期的な「存在承認」の仕組み:「あなたの仕事が役に立っている」「あなたがここにいることが大切」というメッセージを伝える仕組み。表彰制度、感謝の言語化、1on1での承認——これらが日常的に機能していると、孤独感は和らぎます。
動く:まず「接触機会」を増やす
孤独感を下げるための最初の一手は、「社員同士の接触機会を増やすこと」です。
オンボーディングの設計に「30日以内に5人と話す」という仕掛けを入れる。新入社員だけでなく、異動者・復職者にも適用する。オンラインでのランダムペア雑談を週1回実施する。マネジャーに「チームメンバーの近況を名前で把握しているか」を月1回確認させる。
「この人が今どんな状態か」を誰かが気にかけている感覚は、孤独感を大きく和らげます。「ランチを10分で食べながら問題を眺める」という姿勢のように、人事担当者自身が現場を歩き、社員の「今」を観察することも大切な取り組みです。
振り返る:孤独感が事業に与える影響を把握する
職場の孤独感は、パフォーマンスの低下、創造性の減退、欠勤の増加、離職の増加という形で経営数字に影響します。
「孤独を感じている社員は、感じていない社員と比べて○%離職リスクが高い」「孤独感スコアが低いチームは、高いチームと比べてプロジェクト完成率が○%低い」——こういうデータが出せると、経営へのインパクトを語れます。
「施策の効果はコスト削減・リスク低減で整理する」という観点で、孤独感対策は「離職コストの削減」と「生産性損失リスクの低減」として語れます。
明日からできる3つのこと
1. エンゲージメントサーベイに「孤独感」に関する設問を追加する(今月中に)
「職場に本音で話せる相手がいる」「自分が組織に必要とされていると感じる」という設問を追加し、部門別にスコアを確認する。
2. 自分の周りで「最近誰とも話していなさそうな人」を一人思い浮かべる(今日中に)
その人に声をかける。「最近どうですか」というシンプルな一言が、孤独感を持つ人にとって「誰かに気にかけてもらえた」という体験になります。
3. 新入社員のオンボーディングに「部門外の社員と話す機会」を組み込む(来月から)
入社1ヶ月以内に、配属部門以外の社員と1対1で話す機会(ランチ・30分面談等)を設ける。横のつながりを早期に作ることが、孤独感の予防になります。
まとめ
職場の孤独は「個人の弱さ」ではなく、「組織設計の問題」です。人事がこの問題に向き合うことは、個人のウェルビーイングを守るだけでなく、離職・パフォーマンス低下・創造性の減退というビジネスリスクを低減することにもなります。
「誰も犠牲にならない組織を当たり前に」という理念があります。「職場で孤独を感じながら働いている人がいる」という状態は、誰かが犠牲になっている状態です。
孤独感に気づき、構造的に対処し、つながりを設計していく。その地道な取り組みが、「誰もが安心して力を発揮できる組織」につながっていきます。
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本記事は、吉田洋介著『「人事のプロ」はこう動く 事業を伸ばす人事が考えていること』の思想に基づいて執筆しています。
吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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