
ストレスチェックを「やるだけ」で終わらせないために
目次
- なぜストレスチェックの活用は難しいのか
- 「個人データの保護」と「組織改善への活用」のバランス
- 「高ストレス者への対応」が形式的になりやすい
- 「集団分析の結果」を活かす仕組みがない
- よくある失敗パターン
- 失敗①:実施しっぱなしで「何も変わらない」
- 失敗②:管理職に集団分析の結果を渡すだけ
- 失敗③:メンタルヘルスを「個人の問題」として扱う
- プロの人事はこう考える
- 知る:「集団分析の結果から何が読み取れるか」を確認する
- 考える:「職場環境改善のためのアクション」を設計する
- 動く:「高ストレス部門のマネジャーとの対話」を設ける
- 振り返る:前年比較で「改善の手応え」を確認する
- 明日からできる3つのこと
- 1. 直近のストレスチェック集団分析の結果を確認する(30分)
- 2. 「高ストレス部署のマネジャー」と話す機会をセットする(15分)
- 3. ストレスチェックの受検率・高ストレス者の面接実施率を確認する(15分)
- まとめ
ストレスチェックを「やるだけ」で終わらせないために
「毎年ストレスチェックを実施しています」——でも「結果を見て終わり」「高ストレス者への産業医面接に繋げているが、その後のフォローがない」という状態になっていませんか。
ストレスチェックは2015年の労働安全衛生法改正で50人以上の事業場に義務化されました。でも「法令遵守のために実施している」という位置づけに留まっている企業は少なくありません。
ストレスチェックのデータは、組織の状態を把握するための貴重な情報源です。「個人の高ストレス者への対応」だけでなく、「集団分析を通じた職場環境改善」に活用することで、組織全体のメンタルヘルスと生産性の向上につながります。
この記事では、ストレスチェックを「やるだけ」から「使う」への転換の考え方をお伝えします。
なぜストレスチェックの活用は難しいのか
「個人データの保護」と「組織改善への活用」のバランス
ストレスチェックの個人結果は「本人の同意なしに事業者に提供してはならない」という法律の規定があります。これは重要なプライバシー保護ですが、「個人データは使えない」という解釈が広がりすぎると、「データがあるのに何も分析できない」という状態になります。
「集団分析(10人以上の集団で集計した結果)」は個人情報保護の対象外で、「職場環境の改善」に活用できます。「個人情報の保護」と「集団データの活用」を区別して設計することが重要です。
「高ストレス者への対応」が形式的になりやすい
高ストレス者に産業医面接を「勧奨」することは義務ですが、「面接に応じる社員が少ない」という問題がよくあります。「受けると会社にばれるのでは」「受けることで評価に影響するのでは」という不安が、面接への参加を妨げます。
「産業医面接は本人のためのものであり、結果は会社に提供されない」という正確な情報を周知することが、参加率向上につながります。
「集団分析の結果」を活かす仕組みがない
集団分析の結果を集計しても、「この部署のストレスが高い」という情報を「誰が」「どう活用するか」の仕組みがないと、データは眠ります。
「集団分析の結果→当該部門の管理職への共有→職場環境改善のための対話→改善施策の実施→次回との比較」というサイクルを仕組みとして設計することが、ストレスチェックを「使う」ための鍵です。
よくある失敗パターン
失敗①:実施しっぱなしで「何も変わらない」
年1回のストレスチェックを実施するが、「高ストレス者に面接を勧めて終わり」「集団分析はするが結果を見るだけ」という状態が続いています。
「実施しているが何も変わらない」という経験が積み重なると、社員は「また形だけのチェックだ」と感じ、回答の質も下がります。「実施後に何かが変わる経験」を社員に届けることが、ストレスチェックへの参加率・回答の質を高めます。
失敗②:管理職に集団分析の結果を渡すだけ
「集団分析の結果をマネジャーに渡して、各自で考えてください」という対応では、「どう読むか」「何をすべきか」がわからないマネジャーがほとんどです。
集団分析の結果を渡すときには、「結果の読み方」「職場環境改善のためのアクション事例」「人事・産業保健スタッフへの相談方法」をセットで提供することが重要です。「渡して終わり」は改善につながりません。
失敗③:メンタルヘルスを「個人の問題」として扱う
「メンタルヘルスが悪化した社員は個人の問題だ」という捉え方が根底にある組織では、「職場環境を改善する」という発想が生まれにくい。
ストレスの主要な原因は「仕事量・仕事の質・職場の人間関係・組織の管理のあり方」といった職場環境にあります。「個人の問題」ではなく「職場環境の問題」として捉えることが、根本的な解決につながります。
プロの人事はこう考える
知る:「集団分析の結果から何が読み取れるか」を確認する
ストレスチェックの集団分析には、「仕事の量・質のストレス」「職場の支援の状況」「仕事のコントロール感」などの指標が含まれています。
これらの指標で「特に低い部署・高ストレスの集団」を特定し、「なぜその結果が出ているのか」を部門別に分析することが重要です。「高ストレスの部署で何が起きているか」を「知ること」が、改善策設計の出発点です。
「人事の仕事の質の7-8割は"知る"の質で決まる」——ストレスチェックのデータは、「組織の健康状態を知る」ための重要な情報源です。
考える:「職場環境改善のためのアクション」を設計する
集団分析の結果から「問題のある職場環境」が特定できたら、「何を改善するか」を設計します。
職場環境改善の例: ・「仕事量のストレスが高い部署」→ 業務の棚卸し・優先度整理・人員補強の検討 ・「上司への相談しにくさが高い」→ 1on1の質向上・管理職への研修 ・「仕事の見通しが立ちにくい」→ 役割定義の明確化・業務プロセスの整理
「改善策を設計して実施する」という経験の積み重ねが、ストレスチェックを「機能する仕組み」にします。
動く:「高ストレス部門のマネジャーとの対話」を設ける
集団分析の結果でストレスが高かった部門のマネジャーと、「部署の状況・課題・改善のアイデア」を話し合う場を設けることが有効です。
「データを見せて責める」のではなく、「一緒に考える」スタンスでの対話が重要です。「人事は組織の問題解決のパートナー」として関わることで、マネジャーとの信頼関係が生まれます。
振り返る:前年比較で「改善の手応え」を確認する
ストレスチェックの集団分析の結果を前年と比較し、「改善施策を実施した部署のストレスが下がったか」を確認することが重要です。
「施策を実施したが数値に変化がなかった」場合は、「施策が機能しなかった理由」を分析します。「施策を実施した部署のストレスが下がった」場合は、「何が効果的だったか」を記録し、他部署への展開を考えます。
明日からできる3つのこと
1. 直近のストレスチェック集団分析の結果を確認する(30分)
直近のストレスチェックの集団分析の結果を取り出し、「どの部署・どの指標が特に課題か」を確認してみましょう。「確認していたが何もしていなかった」という結果があれば、それが最優先の対応対象です。
着手ポイント:「10人未満の集団は個人情報保護のため集計不可」という集団分析の制約を理解した上で、確認できる集団のデータを活用してください。
2. 「高ストレス部署のマネジャー」と話す機会をセットする(15分)
集団分析の結果でストレスが高かった部署のマネジャーと、「部署の状況について話せる時間をください」と声をかけてみましょう。「責める」のではなく「一緒に考える」という姿勢でのアプローチが重要です。
着手ポイント:「データを見せながら話すより、まず状況を聞く」という順番の方が、マネジャーが本音を話しやすくなります。
3. ストレスチェックの受検率・高ストレス者の面接実施率を確認する(15分)
今の受検率(何%の社員が実施しているか)と、高ストレス者の産業医面接の実施率を確認してみましょう。受検率が80%を下回る場合、「なぜ受けない人がいるか」を探ることが優先課題です。
着手ポイント:「受検率が低い部署」に絞って理由を確認すると、改善策が見えやすくなります。
まとめ
ストレスチェックは「義務だからやる」から「組織の健康状態を把握して改善に使う」へ、発想を転換することで、その価値は大きく変わります。
「集団分析の活用→高ストレス部門との対話→職場環境改善→前年比での改善確認」というサイクルを丁寧に回すことで、組織のメンタルヘルスと生産性が同時に向上します。
まず「直近のストレスチェック集団分析の結果を確認すること」から始めてみてください。
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吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
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