従業員体験(EX)を設計しないと、採用しても定着しない時代になる
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従業員体験(EX)を設計しないと、採用しても定着しない時代になる

#1on1#エンゲージメント#採用#評価#研修

従業員体験(EX)を設計しないと、採用しても定着しない時代になる

「せっかく採用してもすぐ辞めてしまう」「入社後のギャップが大きいと言って転職していく」「なぜ辞めるのか、本当の理由がわからない」——こういった問題を繰り返していませんか?

「採用」は人材確保の終わりではなく、「従業員体験(Employee Experience)」の始まりに過ぎません。入社後の体験の質が、定着率や生産性、そしてエンゲージメントを大きく左右します。

あるサービス業の人事部長が振り返ってくれました。「毎年20人近く採用していたのに、3年後の定着率が55%しかなかった。退職した人の面談記録を見返したら、『入社前に聞いていた仕事内容と違った』『最初の3ヶ月、誰も声をかけてくれなかった』という声が多かった。採用に力を入れるほど離職のコストも増えるという悪循環だった。入社後のケアを仕組み化したら、翌年の定着率が73%に改善した」と。

採用にかけたコストが定着率の悪さで無駄になっている——このパターンを抜け出すために、「採用後の体験設計」という視点が必要です。

今日は、従業員体験(EX)の設計という視点から、「採用した人に長く活躍してもらう」ための考え方を一緒に整理してみたいと思います。


従業員体験(EX)とは何か

「入社から退職まで」のすべての体験

従業員体験(EX)とは、「社員が入社から退職(あるいは定年)まで、組織との関わりを通じて持つあらゆる体験」のことです。

採用プロセス(候補者体験)→ 入社・オンボーディング → 日常の仕事 → 評価面談 → 昇進・昇給 → 育成・研修 → キャリア相談 → 退職——これらすべてが「従業員体験」のタッチポイントです。

どのタッチポイントも「この会社で働き続けたいかどうか」に影響します。「評価面談で自分の貢献を認めてもらえた体験」「困ったときに人事に相談できた体験」「上司から丁寧なフィードバックをもらえた体験」——こういった体験の積み重ねが、「この会社で長く働きたい」という意思につながります。

なぜEXが重要になっているのか

労働市場が売り手市場になり、「良い経験を提供してくれる会社を選ぶ」という行動が一般的になっています。特に優秀な人材ほど選択肢があるため、「体験の良い会社」を選ぶ傾向が強まっています。

また、SNSや口コミサイトの普及で「この会社で働くとどんな体験があるか」が外部に見えやすくなっています。EXは「社員向け」だけでなく、「採用ブランドとして外部に発信されるもの」になっています。「働いてみたら良かった」という体験を持つ社員が口コミで広めることで、採用ブランドが高まります。


よくある失敗パターン

失敗パターン1:「入社前と入社後のギャップ」を放置する

採用時に「〇〇な仕事ができる」「〇〇な環境がある」と伝えていたことが、入社後の実態と違う——このギャップが、早期離職の大きな原因の一つです。

採用広報で「良いところ」だけを強調して、「大変なところ」を伝えないと、「こんなはずじゃなかった」という入社後のギャップが生まれます。「残業は少なめです」と伝えていたが、実際は繁忙期に月40時間を超えるケースがある——こういった情報の非対称性が、入社後の不満と早期離職につながります。

EXの設計では、「現実的な期待のマネジメント(Realistic Job Preview)」が重要です。良い面と難しい面の両方を伝えることで、入社後のギャップを減らし、「それでも入りたい」と思った人材のマッチング精度が高まります。

失敗パターン2:オンボーディングが「書類手続きと研修」だけ

「入社日に書類を揃えて、1週間の研修を受けて、配属部署へ」——このオンボーディングは、「組織・業務への慣れ」は支援できますが、「この会社で本当に活躍できるか・したいか」という不安を解消できません。

新入社員が入社後最初の3ヶ月に感じる不安の多くは、「業務知識の不足」より「人間関係の孤独感」「文化への適応の難しさ」「自分が期待に応えられているかわからない」という非業務的なものです。オンボーディングでは、「業務への適応」だけでなく、「人間関係の構築」「文化への適応」「キャリア・成長への期待のすり合わせ」も支援することが必要です。

失敗パターン3:「辞める時」にしか話を聞かない

退職が決まった後に初めて「なぜ辞めるのか」を聞くパターンです。でも退職を決意した人は、多くの場合「もう関係を修復する気がない」状態です。

「退職面談では本音が出にくい」という現実があります。大切なのは、「退職を決める前の段階で、何が不満か・何が必要かを聞く仕組み」を作ることです。在籍中の定期的なフィードバック収集・1on1・エンゲージメントサーベイが、「退職前の早期発見・対応」の機会になります。


プロの人事はこう考える:EXの設計

「ジャーニーマップ」で体験を設計する

EXを設計するための有効なツールが、「従業員ジャーニーマップ」です。入社から退職(または定年)までの「体験の流れ」を可視化し、各段階で「社員がどんな体験をしているか」「どんな感情を持っているか」「人事・会社がどうサポートできるか」を整理するものです。

まず「現在の体験」を整理し、「理想の体験」との差を特定する。差が大きい「Critical Moment(重要な瞬間)」から改善することが効率的です。

「入社3ヶ月以内の離職が多い」なら、オンボーディング体験の改善が優先課題。「5〜7年目の中堅社員が転職しやすい」なら、その段階でのキャリア相談や成長機会の設計が課題——こういった形で、データと定性情報を組み合わせて優先課題を特定します。

「入社後3ヶ月のケア」を仕組み化する

EXの中でも特に重要な時期が「入社後3ヶ月」です。この時期に感じる「ギャップ・孤独感・不安」を適切にケアできるかどうかが、定着率を大きく左右します。

採用コスト(媒体費・エージェント費・採用担当者工数)と入社後育成コストを合わせると、1名の採用・定着コストは一般的に年収の1〜2割と言われます。月給40万円の社員が3ヶ月で退職した場合、100万円超のコストが無駄になる計算です。入社後3ヶ月のケアへの投資(月1〜2回のチェックイン面談、メンター制度)が早期離職を防ぐ最も費用対効果の高い施策の一つです。

「キャリアの見通し」を持てる機会を作る

EXで「長期的な定着」に影響するのが、「この会社でのキャリアの見通しが持てるか」です。

「自分は5年後、10年後にどうなっているか」が見えない社員は、「他に良い機会があれば転職する」という思考になりやすい。半期に一度のキャリア面談、社内キャリアパスの共有、先輩社員のキャリアストーリーの発信——こういった「キャリアの見通しを持てる機会」を作ることが、長期的な定着につながります。

「今の仕事が面白いかどうか」と「将来のキャリアが見えるかどうか」は、両方が揃って定着率が高まります。どちらか一方では不十分で、両方の体験を設計することが必要です。


明日からできる3つのこと

1. 「入社後1ヶ月のチェックイン」を仕組み化する(所要時間:設計に1〜2時間、実施は30分/人)

入社後1ヶ月時点で、人事担当者が新入社員と個別に話す「チェックイン面談」を仕組み化してみましょう。「今の状態はどうですか?」「入社前に期待していたことと、実際はどうですか?」「困っていることや、もっとサポートがほしいと感じることはありますか?」という2〜3個の質問から始めるだけで、早期の問題発見・対応ができます。

「月1回のチェックインを入社後6ヶ月まで続ける」という設計にすることで、入社初期の孤独感・不安の緩和に大きく貢献します。

2. 「直近1年の早期離職者の理由」を分析する(所要時間:2〜3時間)

直近1年以内に退職した社員(特に入社3年以内)の退職理由を振り返り、「どのタッチポイントで問題が起きていたか」を整理してみましょう。「入社直後の孤独感」「配属部署との期待のズレ」「成長機会の不足」——パターンが見えたら、そこがEX改善の優先課題です。

定性的な退職理由だけでなく、「在籍期間」「部署」「入社チャネル」などのデータと合わせて分析すると、パターンが見えやすくなります。

3. 入社3ヶ月後の「実態調査アンケート」を作る(所要時間:設計に1〜2時間)

入社後3ヶ月のタイミングで「入社前に期待していたことと、実際の体験の差はありましたか」「今の仕事で一番充実していることは何ですか?」「困っていることや改善してほしいことがあれば教えてください」という短いアンケートを取ってみましょう。このデータが、EX改善の重要な情報源になります。


まとめ:EXは「採用投資を守る」取り組み

従業員体験(EX)の改善は、「採用した人に長く活躍してもらう」ことで「採用への投資を最大化する」取り組みです。

「経営数字からの発想×組織状況からの発想=両利きの人事」という視点から見ると、EXの設計は「採用コスト削減(定着率向上)」と「事業成長への貢献(エンゲージメント・生産性向上)」という経営的な価値を持ちます。

「採用するだけでなく、採用した人が活躍し続けられる環境を作る」——これが人事プロとしての仕事の根本だと思っています。採用の努力を定着率の改善につなげることが、「採用に投資する価値がある」という経営からの評価につながります。


もっと深く学びたい方へ

従業員体験とエンゲージメントの設計を体系的に学びたい方には、「人事のプロ実践講座」がお役に立てるかもしれません。

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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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