従業員体験(EX)を設計しないと、採用しても定着しない時代になる
目次
- 従業員体験(EX)とは何か
- 「入社から退職まで」のすべての体験
- なぜEXが重要になっているのか
- よくある失敗パターン
- 失敗パターン1:「入社前と入社後のギャップ」を放置する
- 失敗パターン2:オンボーディングが「書類手続きと研修」だけ
- 失敗パターン3:「辞める時」にしか話を聞かない
- プロの人事はこう考える:EXの設計
- 「ジャーニーマップ」で体験を設計する
- 「入社後3ヶ月のケア」を仕組み化する
- 「キャリアの見通し」を持てる機会を作る
- 明日からできる3つのこと
- 1. 「入社後1ヶ月のチェックイン」を仕組み化する(所要時間:設計に1〜2時間、実施は30分/人)
- 2. 「直近1年の早期離職者の理由」を分析する(所要時間:2〜3時間)
- 3. 入社3ヶ月後の「実態調査アンケート」を作る(所要時間:設計に1〜2時間)
- まとめ:EXは「採用投資を守る」取り組み
- もっと深く学びたい方へ
従業員体験(EX)を設計しないと、採用しても定着しない時代になる
「せっかく採用してもすぐ辞めてしまう」「入社後のギャップが大きいと言って転職していく」「なぜ辞めるのか、本当の理由がわからない」——こういった問題を繰り返していませんか?
「採用」は人材確保の終わりではなく、「従業員体験(Employee Experience)」の始まりに過ぎません。入社後の体験の質が、定着率や生産性、そしてエンゲージメントを大きく左右します。
今日は、従業員体験(EX)の設計という視点から、「採用した人に長く活躍してもらう」ための考え方を一緒に整理してみたいと思います。
従業員体験(EX)とは何か
「入社から退職まで」のすべての体験
従業員体験(EX)とは、「社員が入社から退職(あるいは定年)まで、組織との関わりを通じて持つあらゆる体験」のことです。
採用プロセス(候補者体験)→ 入社・オンボーディング → 日常の仕事 → 評価面談 → 昇進・昇給 → 育成・研修 → キャリア相談 → 退職——これらすべてが「従業員体験」のタッチポイントです。
「採用CX(候補者体験)」が注目されるようになりましたが、EXはそれを含む、より広い概念です。
なぜEXが重要になっているのか
労働市場が売り手市場になり、「良い経験を提供してくれる会社を選ぶ」という行動が一般的になっています。特に優秀な人材ほど選択肢があるため、「体験の良い会社」を選ぶ傾向が強まっています。
また、SNSや口コミサイトの普及で「この会社で働くとどんな体験があるか」が外部に見えやすくなっています。EXは「社員向け」だけでなく、「採用ブランドとして外部に発信されるもの」になっています。
よくある失敗パターン
失敗パターン1:「入社前と入社後のギャップ」を放置する
採用時に「〇〇な仕事ができる」「〇〇な環境がある」と伝えていたことが、入社後の実態と違う——このギャップが、早期離職の大きな原因の一つです。
採用広報で「良いところ」だけを強調して、「大変なところ」を伝えないと、「こんなはずじゃなかった」という入社後のギャップが生まれます。EXの設計では、「現実的な期待のマネジメント(Realistic Job Preview)」が重要です。
失敗パターン2:オンボーディングが「書類手続きと研修」だけ
「入社日に書類を揃えて、1週間の研修を受けて、配属部署へ」——このオンボーディングは、「組織・業務への慣れ」は支援できますが、「この会社で本当に活躍できるか・したいか」という不安を解消できません。
オンボーディングでは、「業務への適応」だけでなく、「人間関係の構築」「文化への適応」「キャリア・成長への期待のすり合わせ」も支援することが必要です。
失敗パターン3:「辞める時」にしか話を聞かない
退職が決まった後に初めて「なぜ辞めるのか」を聞くパターンです。でも退職を決意した人は、多くの場合「もう関係を修復する気がない」状態です。
「退職面談では本音が出にくい」という現実があります。大切なのは、「退職を決める前の段階で、何が不満か・何が必要かを聞く仕組み」を作ることです。
プロの人事はこう考える:EXの設計
「ジャーニーマップ」で体験を設計する
EXを設計するための有効なツールが、「従業員ジャーニーマップ」です。入社から退職(または定年)までの「体験の流れ」を可視化し、各段階で「社員がどんな体験をしているか」「どんな感情を持っているか」「人事・会社がどうサポートできるか」を整理するものです。
まず「現在の体験」を整理し、「理想の体験」との差を特定する。差が大きい「Critical Moment(重要な瞬間)」から改善することが効率的です。
「入社3ヶ月以内の離職が多い」なら、オンボーディング体験の改善が優先課題。「5〜7年目の中堅社員が転職しやすい」なら、その段階でのキャリア相談や成長機会の設計が課題——こういった形で、データと定性情報を組み合わせて優先課題を特定します。
「入社後3ヶ月のケア」を仕組み化する
EXの中でも特に重要な時期が「入社後3ヶ月」です。この時期に感じる「ギャップ・孤独感・不安」を適切にケアできるかどうかが、定着率を大きく左右します。
入社後1週間・1ヶ月・3ヶ月のタイミングで、「今の状態はどうか」「困っていることはないか」を人事・上司が確認する仕組みを作る。特に「何でも聞ける人」(メンターや人事担当者)を指定しておくことで、新入社員の不安を和らげることができます。
「キャリアの見通し」を持てる機会を作る
EXで「長期的な定着」に影響するのが、「この会社でのキャリアの見通しが持てるか」です。
「自分は5年後、10年後にどうなっているか」が見えない社員は、「他に良い機会があれば転職する」という思考になりやすい。半期に一度のキャリア面談、社内キャリアパスの共有、先輩社員のキャリアストーリーの発信——こういった「キャリアの見通しを持てる機会」を作ることが、長期的な定着につながります。
明日からできる3つのこと
1. 「入社後1ヶ月のチェックイン」を仕組み化する(所要時間:設計に1〜2時間、実施は30分/人)
入社後1ヶ月時点で、人事担当者が新入社員と個別に話す「チェックイン面談」を仕組み化してみましょう。「今の状態はどうですか?」「入社前に期待していたことと、実際はどうですか?」という2〜3個の質問から始めるだけで、早期の問題発見・対応ができます。
2. 「直近1年の早期離職者の理由」を分析する(所要時間:2〜3時間)
直近1年以内に退職した社員(特に入社3年以内)の退職理由を振り返り、「どのタッチポイントで問題が起きていたか」を整理してみましょう。パターンが見えたら、そこがEX改善の優先課題です。
3. 入社3ヶ月後の「実態調査アンケート」を作る(所要時間:設計に1〜2時間)
入社後3ヶ月のタイミングで「入社前に期待していたことと、実際の体験の差はありましたか」「今の仕事で一番充実していることは何ですか?困っていることは?」という短いアンケートを取ってみましょう。このデータが、EX改善の重要な情報源になります。
まとめ:EXは「採用投資を守る」取り組み
従業員体験(EX)の改善は、「採用した人に長く活躍してもらう」ことで「採用への投資を最大化する」取り組みです。
「経営数字からの発想×組織状況からの発想=両利きの人事」という視点から見ると、EXの設計は「採用コスト削減(定着率向上)」と「事業成長への貢献(エンゲージメント・生産性向上)」という経営的な価値を持ちます。
「採用するだけでなく、採用した人が活躍し続けられる環境を作る」——これが人事プロとしての仕事の根本だと思っています。
もっと深く学びたい方へ
従業員体験とエンゲージメントの設計を体系的に学びたい方には、「人事のプロ実践講座」がお役に立てるかもしれません。
▼ 人事のプロ実践講座(詳細・申込み) 人事図書館の詳細・入会はこちら
人事の仲間と学び合える「人事図書館」へのご参加もお待ちしています。
▼ 人事図書館(詳細・入会申込み) 人事図書館の詳細・入会はこちら
関連記事
HR Tech導入で失敗しない人事が、事前に必ず確認すること
採用管理システムを入れたが、現場が使ってくれない人事システムの移行で大混乱が起きたベンダーに言われるままに高額なシステムを契約したが、使い勝手が悪い——HR Techの導入失敗事例は、残念ながら珍しくありません。
LGBTQフレンドリーな職場を作るとき、人事が最初にやるべきこと
LGBTQの社員への配慮が必要だとわかっているが、何から始めればいいかわからないセクシュアリティに関する問題が起きた際の対応が不安制度を整えたいが、どこまでやるべきか——LGBTQに関する職場の問題について、こういった悩みを持つ人事担当者が増えています。
労基対応を「怖いもの」にしない人事のための基本の考え方
残業代の計算が合っているか不安で労働基準監督署に何かを言われたらどうしよう法律のことがよくわからなくて、コンプライアンス対応に自信がない——労務コンプライアンスへの不安を抱えている人事の方は少なくないと思います。
「良い質問」が「良い採用」を作る——面接質問設計の考え方
面接で何を聞けばいいかわからない面接官によって聞くことがバラバラで、候補者の比較ができない質問への回答が表面的で、その人の本質が見えてこない——採用面接の質問設計に悩んでいる人事担当者・採用担当者は多いのではないでしょうか。