ウェルビーイング推進が「福利厚生の追加」で終わってしまう理由
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ウェルビーイング推進が「福利厚生の追加」で終わってしまう理由

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ウェルビーイング推進が「福利厚生の追加」で終わってしまう理由

「社員のウェルビーイング向上に取り組みたい」——こう言うと、「社食を充実させる」「フィットネス補助を出す」「リラクゼーションルームを作る」という方向に話が進みやすいです。

でも、ウェルビーイング(Well-being:心身・社会的な良好状態)の向上を福利厚生の追加だけで実現しようとすると、「施設やサービスは整ったが、社員の状態はあまり変わっていない」という結果になることがあります。

ウェルビーイングの根本に関わるのは、「仕事そのものの体験」です。「自分の仕事に意味を感じられるか」「成長を実感できるか」「心理的に安全な環境で働けているか」「健全な人間関係の中にいるか」——こうした仕事の体験の質が、ウェルビーイングに最も大きな影響を与えます。

この記事では、ウェルビーイング推進の設計において人事が考えるべきことをお伝えします。


なぜウェルビーイングは「福利厚生」に矮小化されやすいのか

「見えるもの」に投資しやすい

「福利厚生の充実」は具体的で目に見えます。「フィットネス補助を月○円追加した」「社食メニューを改善した」という施策は実施しやすく、社員にも認知されやすい。

一方、「仕事の意味づけ」「マネジャーの関わり方の改善」「心理的安全性の向上」は、効果が見えにくく測定も難しい。結果として、「見えやすいが本質的でない施策」に投資が集中しやすくなります。

「エンゲージメント」との混同

ウェルビーイングとエンゲージメントは関連しますが別の概念です。エンゲージメントは「仕事・組織への関与・熱意」を指しますが、ウェルビーイングは「心身・社会的な健康・良好状態」を指します。

「ウェルビーイング向上策=エンゲージメント施策」と混同すると、「仕事への熱意を高めること」ばかりを重視して、「心身の負担を減らすこと」が後回しになることがあります。

経営への効果の説明が難しい

「社員が幸福になることは良いことだ」は正しいですが、経営に「だから投資する価値がある」と伝えるためには、「ウェルビーイングと事業成果の接続」を語る必要があります。

「ウェルビーイングが高い組織は離職率が低い」「ウェルビーイングが高い社員は生産性が高い」という研究結果はありますが、「自社でどれだけの投資対効果があるか」を語るためには、自社のデータが必要です。


よくある失敗パターン

失敗①:施策が「同調圧力」になる

「全員でヨガをやりましょう」「朝のマインドフルネスに参加しましょう」という形での強制・半強制的なウェルビーイング施策は、逆効果になることがあります。

ウェルビーイングは個人差が大きいです。ある人にとって効果的な方法が、別の人には全く合わないこともあります。「選択の自由」がないウェルビーイング施策は、かえってストレスになることもあります。

失敗②:問題の根本原因を放置して「癒し」を提供する

「業務過多でストレスが高い → マッサージ補助を出す」という対応は、問題の根本(業務過多)を解決せずに症状(ストレス)を緩和しようとするものです。

マッサージ補助は「あれば嬉しい」程度のものですが、根本原因が解消されなければ、ウェルビーイングの本質的な改善は起きません。

「なぜストレスが高いのか」という根本原因に向き合うことが、ウェルビーイング向上の本道です。

失敗③:マネジャーの役割が見えていない

ウェルビーイングに最も大きな影響を与えるのは「直属のマネジャーとの関係」です。「マネジャーに承認されている感覚」「仕事への関与が感じられる」「困ったときにサポートしてもらえる」——こうした経験が、日常的なウェルビーイングを大きく左右します。

マネジャーのマネジメントスキルへの投資なしに、ウェルビーイング向上は難しいです。


プロの人事はこう考える

知る:社員のウェルビーイングの「今の状態」を測る

ウェルビーイング向上を始める前に、「今の社員のウェルビーイングはどんな状態か」を把握することが重要です。

ウェルビーイングの主な測定領域: ・身体的健康(疲労・睡眠・健康状態) ・精神的健康(ストレス・不安・バーンアウトリスク) ・仕事の意味・やりがい(自分の仕事に意義を感じているか) ・人間関係(上司・同僚との関係の質) ・成長実感(スキルが伸びている・キャリアが拓けていると感じるか)

エンゲージメントサーベイにこれらの設問を組み込むか、専用のウェルビーイングサーベイを実施することで、「どの領域に問題があるか」が見えてきます。

考える:「仕事の体験の質」を改善する施策を優先する

ウェルビーイングを高めるための施策は、「福利厚生(環境整備)」より「仕事の体験の質(ワークデザイン)」の改善が優先されるべきです。

・業務量の適正化:過重労働の解消が最も基本的なウェルビーイング施策です ・マネジャーの支援力向上:定期的な1on1・フィードバックの質の改善 ・自律性の付与:仕事の進め方・優先順位について自分で決められる範囲を広げる ・成長機会の提供:新しいことを学び・試せる機会

これらの施策は「人事制度・組織設計・マネジメントの質」に関わるものです。「福利厚生の追加」よりも難しいですが、ウェルビーイングへの影響は大きいです。

動く:まず「一番困っている領域」から介入する

ウェルビーイングサーベイ結果から、「最もスコアが低い領域」「最もリスクが高いチーム」を特定して、まずそこに介入することが重要です。

全社一斉に施策を展開する前に、「問題が最も大きい部分」から始めて、成果を確認してから横展開する。「小さく始めて、成功事例を作って横展開する」アプローチが、ウェルビーイング施策でも有効です。

また、「働き方の見直し(残業削減・休暇取得促進)」という基本的な施策から始めることが、効果が出やすいことが多いです。

振り返る:ウェルビーイングと事業指標の接続を確認する

ウェルビーイングスコアの変化が、離職率・欠勤率・生産性にどう影響しているかを定期的に確認することが重要です。

「ウェルビーイング施策に○○円投資した結果、離職率が○%改善し、再採用コストが○○円削減された」という形で語れると、ウェルビーイングへの投資の継続が経営に認められやすくなります。


明日からできる3つのこと

1. 「過去1ヶ月で体調不良や過重労働の兆候がある社員」を確認する(30分)

直近1ヶ月で長時間残業が多い社員・欠勤が増えている社員を確認してみましょう。それが「ウェルビーイングリスクのある社員」のリストになります。

着手ポイント:勤怠データから「月の残業時間が45時間を超えている社員」を抽出するだけで始められます。

2. 「仕事のやりがい」について1on1で一人に聞いてみる(30分)

社員の一人に「最近仕事のやりがいを感じられていますか?」という問いを1on1で聞いてみましょう。その答えから、「仕事の体験の質」に何か課題がないかを確認できます。

着手ポイント:「評価のための質問」ではなく「純粋に気になって聞いた」というスタンスで聞くことが、本音を引き出します。

3. マネジャーに「1on1の実施状況」を確認する(15分)

各チームのマネジャーが1on1を定期的に実施しているかを確認しましょう。1on1の実施率が低いチームほど、ウェルビーイングの問題が表面化しにくい状態になっています。

着手ポイント:1on1が実施されていないマネジャーに「なぜできていないか」を聞いてみると、「やり方がわからない」「時間がない」という課題が見えてきます。


まとめ

ウェルビーイング推進は「福利厚生の充実」で終わらせるべきではありません。「仕事の体験の質」「マネジャーの支援」「業務量の適正化」という本質的な改善に取り組むことが、真のウェルビーイング向上につながります。

「誰も犠牲にならない組織を当たり前に」——この考え方を実現するための具体的な取り組みがウェルビーイング推進です。まず現状を測ることから始めてみましょう。


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吉田洋介

人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』

リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。

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