
エンゲージメントが低下している。原因の特定から始める組織改善の進め方
目次
エンゲージメントが低下している。原因の特定から始める組織改善の進め方
「エンゲージメントサーベイのスコアが下がっていて。でも原因がよくわからなくて、どこから手をつければいいか……」
こういった悩みを持つ人事担当者は多いと思います。サーベイを実施して、スコアが低いことはわかった。でも「なぜ低いのか」の原因がつかめないまま、「とりあえず1on1を増やそう」「研修をやろう」という施策に走ってしまう。そして半年後、スコアはほとんど変わっていない——こういうサイクルを繰り返している組織は少なくないと思います。
エンゲージメントの低下には、必ず原因があります。でも「サーベイのスコア」は「症状」であって「原因」ではない。原因を特定せずに施策を打っても、的外れになりやすい。今日は、エンゲージメント低下の原因を特定するための考え方をお伝えします。
「スコアが低い」は出発点に過ぎない
ある企業の人事担当者から、こんな話を聞きました。
エンゲージメントサーベイを導入して2年。スコアが低い部門が固定されていて、毎年「改善してください」と部門長に伝えるが、スコアは変わらない。経営層からは「で、どうするの?」と丸投げされている。人事は施策を考えようとするが、どの施策が原因に対応しているかが自分でもよくわからない——という状況でした。
この状況の問題は「施策がない」ことではなく「原因がわかっていない」ことです。
組織の問題を複数の部署から聞くと、全員が違う「原因」を挙げます。採用部門は「採用基準の問題」、現場は「マネジメントの問題」、人事は「評価制度の問題」と言う。「みんな正しい。でも一部しか見えていない。象の全体像を見ようとすることが人事の役割」——群盲象をなでる状態が、エンゲージメントの原因特定でも起きています。
問題はもう一つあります。「スコアが低い状態が続いている部門の部門長」がエンゲージメント低下の原因の一部であるとき、その部門長に「改善してください」と言っても状況は変わりません。原因が「マネジメントの問題」であれば、マネジメントを変える(マネージャーの育成・配置転換・組織構造の変更など)必要があります。スコアを伝えるだけでは変わらないわけです。
エンゲージメント低下の主な原因パターン
エンゲージメントが低下する原因は大きく4つのパターンに分けられます。
① マネジメント起因:直属の上司への不満(指示が不明確・フィードバックがない・話を聞いてもらえない)。多くの調査でエンゲージメントに最も大きく影響するのは「直属の上司との関係」と言われています。
② キャリア・成長機会起因:「この会社にいても成長できない」という閉塞感。特に20〜30代の若手社員には、「自分が成長していると実感できているか」がエンゲージメントに大きく影響します。
③ 仕事の意義・目的起因:「なんのためにこの仕事をしているのかわからない」という意味の喪失。「この会社が社会にどう貢献しているか」「自分の仕事が全体の中でどんな意味を持つか」が見えにくい職場では、エンゲージメントが下がりやすい。
④ 環境・条件起因:給与・労働時間・人間関係・物理的環境への不満。これは改善が難しいケースもありますが、「改善する意思があるか」「変化の見通しがあるか」が重要です。
サーベイのスコアだけを見ていると、これらが混在して「何が問題かわからない」状態になりやすい。
エンゲージメント低下の原因を特定する3つのステップ
ステップ1:「スコアの内訳」を分解して見る
まずサーベイのスコアを「部門別・設問別・属性別」に分解してみてください。
「全社スコアが低い」ではなく、「A部門だけが特に低い」「20代社員のスコアが特に低い」「上司への満足度の設問だけが低い」という絞り込みができると、原因の仮説が立てやすくなります。
スコアが低い部門・属性に共通している要因を探すことが、原因特定の第一歩です。
例えば「上司への満足度が全社で低い→マネジメント全体の問題の可能性」「特定の部門だけ低い→その部門のマネージャーの問題の可能性」「全社で業務量に関する設問が低い→組織全体の人員不足・業務過多の可能性」というように、パターンを読み取ることができます。
利用しているサーベイツールによっては、自動で分析結果を提示してくれるものもありますが、「機械的に出てきた分析を読むだけ」では不十分です。人事がデータを自分で見て、仮説を立てる力が求められます。
ステップ2:数字の裏にある「声」を拾う
スコアがわかったら、次は「なぜそのスコアなのか」を人から直接聞く段階です。
スコアが特に低い部門の社員数名に、個別に話を聞いてみてください。「サーベイのスコアが低かったが、何か背景があれば教えてもらえますか」という一言から始まる対話が、原因特定の核心になります。
「本音を話してもらえるか」が成功のカギです。「これを話したら評価に影響するかも」という不安を取り除くために、「話してくれた内容は人事として承りますが、評価には一切使いません」ということを最初に伝えることが大切です。
退職者ヒアリングも有効です。在職中は言えなかった本音が、退職後3ヶ月くらいで出てくることが多い。「なぜ辞めたか」より「何があったら続けていたか」という問いの方が、具体的な改善ヒントが出てきます。エンゲージメントが低くて辞めていった人たちが「何を求めていたか」は、在籍している社員が「何を求めているか」と共通している部分が多いはずです。
ステップ3:「仮説→小さな施策→検証」のサイクルを回す
原因の仮説が立ったら、すぐに大きな施策を打たずに「小さく試してみる」ことが大切です。
「マネジメントが原因だろう」という仮説が立ったなら、まず一つの部門でマネージャー向けの月次対話の場を設けてみる。3ヶ月後にスコアの変化を見る。改善が見られれば横展開する——この「小さく始めて成功事例を作って横展開する」サイクルが、エンゲージメント改善の確実な方法です。
「全社員対象の研修を一斉にやる」という大きな施策は、コストと時間がかかる上に、「原因と関係ない人にも実施している」という非効率が生まれやすい。「ピンポイントで原因に対応する施策」を小さく試すほうが、効果が見えやすく、改善サイクルが回りやすくなります。
「データ」と「対話」の両輪で原因に迫る
エンゲージメント改善で効果的な組織では、「定量データ(サーベイ)」と「定性情報(対話・ヒアリング)」を両方使っています。
定量データだけに頼ると、「数字の動きは見えるが、なぜ動いたかがわからない」という状態になります。定性情報だけに頼ると、「声の大きい人の意見に引きずられる」「特定の部署の声しか届かない」というリスクがあります。
「サーベイで全体像を把握し、ヒアリングで原因を掘り下げる」という組み合わせが、原因特定の精度を上げます。
また、エンゲージメントの変化には「タイムラグ」があることも知っておく必要があります。施策を打ってから、スコアに反映されるまでに半年〜1年かかることもあります。「施策を打ったのにスコアが変わらない」という焦りから、次々と施策を変えることは逆効果です。「なぜ変わらないのか」を掘り下げることが大切です。
明日からできる3つのこと
1. 「直近のサーベイ結果を部門別・設問別に分解してみる」(所要時間:1〜2時間)
サーベイの集計結果を部門別・設問別・属性別(年代、職種、勤続年数など)に分けて見てみましょう。「全社スコア」だけ見ていると見えてこないパターンが、分解することで浮かび上がります。
「どの部門が特に低いか」「どの設問カテゴリが特に低いか」を書き出すことで、仮説が立てやすくなります。
2. 「スコアが特に低い部門の社員1〜2人に話を聞く」(所要時間:各30〜45分)
スコアが低い部門の社員から、1〜2人を選んで個別に話を聞いてみましょう。「今の職場の状況について率直に聞かせてほしい」という姿勢で。聞いたことは評価に使わないと伝えた上で、「最近仕事をしていて一番しんどいことは何ですか?」と問いかけることが原因特定の近道です。
3. 「次のサーベイまでに、一つの部門で小さな施策を試す」(所要時間:施策設計に半日)
仮説が立ったら、スコアが低い部門を一つ選び、小さな施策を試してみましょう。「月1回、マネージャーと社員の1on1を必ず実施する」「毎週月曜の朝礼に感謝共有の1分を追加する」——小さく試して、次のサーベイでスコアの変化を確認する。この一サイクルが、エンゲージメント改善の手応えを生みます。
まとめ
エンゲージメントの低下に「これをやれば解決する」という万能の施策はありません。原因を特定せずに施策を打っても、的外れになりやすい。スコアを分解して、声を拾って、仮説を立てて、小さく試す——この地道なプロセスが、スコアを実際に上げていくための道筋です。
「データを取るだけでは意味がない」——サーベイは起点であって、そこからの対話と行動がエンゲージメント改善の本体です。「スコアを上げること」を目的にするのではなく、「社員一人ひとりが力を発揮できる環境を作ること」を目的に据えることが、本質的なエンゲージメント改善につながります。
もう少し深く学びたい方へ
人事図書館では「人事のプロ実践講座」を開講しています。 エンゲージメントサーベイの活用方法から、原因特定・施策設計まで、実践的なアプローチを仲間と学べます。
▶ 人事図書館(入会案内) 人事図書館の詳細・入会はこちら
人事図書館は、人事をはじめとする「人・組織課題に向き合うすべての人」のための学びと交流の場です。仲間と学びで、未来を拓く。あなたの一歩を応援しています。
#人事 #エンゲージメント #組織開発 #人事図書館 #人事のプロ実践講座
吉田洋介
人事図書館 代表 / 著書『「人事のプロ」はこう動く』
リクルートマネジメントソリューションズで14年間・500社以上の組織人事コンサルティングに従事。 上海駐在を経て2021年に独立。2024年に人事図書館を設立(会員740名超)。 「すべての組織に人事のプロを」を理念に、経営と現場をつなぐ人事の実践知を発信している。
著者の実践講座を見る →関連記事
エンゲージメント「職場にいても孤独」——その問題に人事はどう向き合うか
会社には行っているけど、本当に誰とも話せていない気がして
エンゲージメントストレスチェックを「やるだけ」で終わらせないために
毎年ストレスチェックを実施しています——でも結果を見て終わり高ストレス者への産業医面接に繋げているが、その後のフォローがないという状態になっていませんか。
エンゲージメント「辞めたい」という意思決定は、ある日突然起きない
突然、辞めると言ってきた——退職の報告を受けた管理職や人事担当者から、こういう言葉をよく聞きます。全然そんな素振りはなかったのにと。
エンゲージメントリテンション施策で「辞めさせない」だけを目指すと本質を見失う
離職率が高くて困っているという相談を受けるとき、何か引き止める施策を打ちたいという発想で動き始めることがあります。でも、辞めさせないを目的にした施策は、多くの場合根本的な解決にならないと思っています。